大井 裕子
人口減少・超高齢化の進展や財政制約・経済の低迷に直面し、かつ、地球環境・エネルギー対策が喫緊の課題とされる今般の我が国においては、公共交通と一体となって日常生活に必要な住居、商業、医療、緑等のまちの機能が、住まいに身近なところに集積され、住民が自家用車に過度に頼ることなく、公共交通によってこれらの機能にアクセスできるようなコンパクトなまちづくりを進めていくことが強く求められている。
国土交通省におけるこれまでのコンパクトシティ推進への取り組みを概観しつつ、昨年成立した「エコまち法(都市の低炭素化の促進に関する法律)」と、それに続く、今後のコンパクトシティ推進施策について紹介する。
唐渡 広志
都市の郊外化がもたらした弊害として、地方自治体の財政悪化、交通負荷および中心市街地の衰退などがよく指摘されている。特に、自治体によるコンパクトシティ政策の選択は自治体の財政悪化問題が大きな誘因になっている。本稿は、コンパクトシティ政策が自治体の都市政策の中心となる経緯を概観し、郊外化による弊害の特徴を明らかにする。さらに現在のコンパクトシティ政策がこれらの弊害に対応しているものなのかどうかを診断する。
キーワード:コンパクトシティ,郊外化,外部不経済,都市計画
keywords:Compact City,Suburbanization,External Diseconomies,Urban Planning
佐谷 説子
「コンパクトシティ政策:世界5都市のケーススタディと国別比較」報告書(日本語)が、平成25年2月、OECDから発表された。これは、昨年6月に発表された”Compact City Policies: A Comparative Assessment”(OECD2012)の完全和訳である。
本稿では、同報告書の内容を紹介するとともに、コンパクトシティ政策に関するOECDの今後の課題についてご説明する。
JREI-KAB環境不動産共同研究会
環境不動産(グリーンビルディング)に対する認識が世界全体で高まり、環境性能と経済価値との関係にも注目が集まっています。
日本では2002年にCASBEE(建築環境総合性能評価システム)が開発され、環境配慮設計や地方自治体への届出等に活用され、マーケット向けの普及版も開発されました。いくつかの銀行は独自基準による認証・評価をしています。2011年には東日本大震災と電力不足を経験し、省エネ・耐震・事業継続性等への意識も高まっています。
韓国では2008年に政府の国土海洋部が親環境建築物認証制度を導入し、公共建築物には認証取得を義務化しています。容積率の緩和や保有税の減税、金融機関による金利優遇等、認証取得によるインセンティブを設けており、民間建築物にも認証件数が増加しています。
諸外国でも英国BREEAM、米国LEEDをはじめとする環境性能評価システムの開発・普及が進むとともに、国連環境計画金融イニシアティブ不動産ワーキンググループ(UNEPFIPWG)が、シンプルで費用のかからない、互換性の高いツール作成の必要性を提言しています。環境・社会・ガバナンス(ESG)への配慮を不動産投資に適用するため、不動産会社・運用機関を対象にしたグローバル不動産サスティナビリティ・ベンチマーク(GRESB)も世界規模で創設されています。
日本不動産研究所と韓國鑑定院は業務提携の一環として環境不動産に関する共同研究を行い、日韓両国の取組・問題意識の共有を進めています。今回はその取組のひとつとして、両国の環境不動産市場の現状と今後の展望をお互いの機関誌に掲載し、両国の読者にご紹介します。
2013年4月
一般財団法人日本不動産研究所 理事・特定事業部長 小林 信夫 | 韓國鑑定院 不動産研究院長 金 鍾海(キム・ジョンヘ)
韓國鑑定院不動産研究院不動産産業研究部
翻訳:愼明宏
本稿は別稿前文のとおり、日本不動産研究所との共同研究の成果の一つとして公表するものである。環境不動産の不動産市場における位置づけと価値等に関しての相互理解を深め、実務の向上のため、お互いの参考にすることを目的としている。
キーワード:韓国の親環境認証制度、経済価値、ヘドニック価格関数分析
廣田 裕二 後藤 健太郎 内田 輝明
本稿は別稿前文のとおり、韓國鑑定院との共同研究の成果の一つとして公表するものである。環境不動産の不動産市場における位置づけと価値等に関しての相互理解を深め、実務の向上のため、お互いの参考にすることを目的としている。環境不動産の定義、各種認証制度とアンケート調査による不動産市場での認識のほか、国、鑑定協会、日本不動産研究所のこれまでの取組の状況を紹介し、最後に今後についてまとめた。
キーワード:環境不動産、CASBEE、環境不動産懇談会、不動産投資家調査
松岡 利哉
素材(丸太)供給は世界的に木材需給が引き締まった状況で外材が減少し、国産材割合は平成23(2011)年で74.4%と3年連続で70%を超えている。国内の慢性的な木材への需要不足のなか、平成24(2012)年に入ると円高ユーロ安が進行し、欧州産製品輸入等との競合により国産材製品及び素材への需要は不安定で厳しい状況にあり、山元では素材価格の下落時にも供給過剰体質があるなど、脆弱な需給構造となっており、素材価格は大きく反落した。平成24(2012)年3月末現在における山元立木価格は、素材価格の反落により前年までの2年連続の上昇後の反落で桧は過去最大の下落率を記録した。
本稿では、素材価格の反落にみる需給構造に視点をあわせて、当研究所が「山林素地及び山元立木価格調」として昨年9月25日に発表した内容に加えてその後加工分析した内容を併せ紹介する。
キーワード:山林素地価格、山元立木価格、素材価格の需給構造
山田 明
本件は、固定資産評価において市街地的形態を形成していない区域について、市街化区域内であることを理由に、その区域内に存する農地を「市街化区域農地」として評価されたが、当該評価額が適正な時価を上回るとは認められないとされた事例であり、固定資産評価基準に即して評価した評価額が適正な時価を超えるのか否か、また、市街地的形態を形成しているか否かについて市町村課税部局の職員が判断しなければならないかについて問われた裁判として紹介する。
キーワード:固定資産評価、市街化区域農地、適正な時価
外国鑑定理論実務研究会