一般財団法人日本不動産研究所 研究部 副部長 山下 誠之
ベトナムにおいてはインフラ整備等の土地開発プロジェクトにおいて、急激な経済発展に伴う土地需要の増大と地価上昇を背景として、地権者との補償や立退きに係る交渉が長引く事例が多く見られる。インフラ整備を阻害する土地制度に関わる問題を解決するために、2013年11月に土地法が改正され、土地使用についての外国企業と国内企業等との取り扱いの平等化、国家の経済発展のための土地開発の推進、補償及び土地評価の体制強化などが盛り込まれた。今回改正された土地法に基づく土地管理体制のもとで、経済発展に必要不可欠なインフラの整備が進むことが期待される。
【キーワード】べトナム、 土地政策、インフラ整備、 土地回収、 土地評価
【Key Word】Vietnam, Land policy, Infrastructure development, Land expropriation, Land valuation
TMI総合法律事務所 ハノイオフィス 日本国弁護士・ベトナム外国弁護士 小幡 葉子
TMI総合法律事務所 ハノイオフィス パラリガール Nguyen Thu Huyen
ベトナムでは、不動産市場の形成に伴って、企業および政府による不動産鑑定サービスへの需要が高まっている。現行制度は、価格法及び不動産事業法の2系統の不動産鑑定ライセンスが併存し、さらに土地法に基づく鑑定業務を行うための追加的資格要件があるなど錯綜しており、現在、不動産事業法改正作業が進められている。 今後も市場の成長とともに業務の拡張が見込まれるが、不動産情報へのアクセス、発注者による鑑定結果への干渉の排除など、適正な実務運用のために解決すべき課題は多い。
【キーワード】不動産鑑定、べトナム
【Key Word】Real estate appraisal, Vietnam
株式会社URリンケージ 都市整備本部 計画部 課長補佐 栗村 英男
経済成長に伴う人口増加、エネルギー不足、交通渋滞、環境悪化等の都市問題が顕在化し、エコシティ開発のニーズが急速に高まってきているベトナムにおいて、幅広い業界にわたる我が国企業がジャパンチームを形成し、構想・企画といった川上段階から環境共生型都市開発の推進に参画し、日本企業の大きなビジネスチャンスとして展開することを目的に平成24年より活動を実施してきたJ-CODEにおけるベトナムでの取組みについて、開発コンセプトや基本戦略、エコシティ指標・基準(案)等を中心に紹介する。
【キーワード】エコシティ、インフラ輸出、官民連携、TOD、エコシティ指標・基準
【Key Word】Eco-City, Export of Infrastructure, Public and Private Sectors, Transit Oriented Development, Standard of Eco-city
国土交通省 土地・建設産業局 次長 江口 洋一郎
2030年に向けて、我が国における土地を巡る情勢は、人口減少・高齢化の進展、国民のライフスタイル・価値観の変化、国際化の進展、G空間情報・ICT等の技術革新、不動産ストックの増加、新たな土地需要の増大、大規模災害への懸念の高まり等大きく変化している。
大都市では、建築物の耐震改修や建て替え、中古住宅・オフィス市場の活性化、投資資金を呼び込む不動産証券化の促進、医療や介護施設、保育所、市民農園等立地困難な土地需要への対応等が必要となる。
地方都市では、空き地・空き家の有効活用、中心市街地への都市機能や居住密度の集中を進めるコンパクトシティへの取組、市街化区域農地問題への対応等が必要となる。
このような取組の基礎として土地情報の整備が必要であり、中長期的には一元化、オープンデータ化、ICTとの連携等を図る必要がある。
キーワード:土地、人口、高齢化、有効利用、情報
曹 雲珍・前川 俊一(明海大学 不動産学部 教授)
本研究は欧米諸国より生活習慣や住宅意思形態などが日本により近い香港の中古住宅流通市場に焦点をあて、①住宅に対する意識、②流通システム、③市場の効率性(取引コスト、情報整備)3つの視点から比較分析し、日本の住宅流通市場における問題点を明らかにする。
調査の結果、香港は日本に比べ住宅流通市場が活発であるが、その一つの原因として住宅に対する意識にあることが分かった。香港では日本とは異なり住宅は投資資産として重要なものとして位置付けられておりこの意識が積極的な住宅の買い替えに繁がるだけではなく、住宅のメンテナンスにも大きく作用している。従って、日本ではこのような意識が弱いことが「住宅流通市場が活性化していない」理由の一つであること考えられる。また、香港では取引プロセスの一環として弁護士が関与し、法的な責任を分担するシステムであるのに対して、日本では仲介業者が大きな責任を負うシステムとなっている。日本でも消費者が安心できる中古住宅の取引を行えるようにするには多様な専門家が関与する必要がある。市場の効率性において、取引コストの高い日本は、住宅流通市場が阻害されているといえる。そして、日本の取引コストが高い一番の要因は仲介手数料が高いことである。また、情報の整備状況については香港よりも日本が遅れていることがわかった。個人の不動産取引に十分に役立つ情報整備が必要である。
キーワード:住宅流通システム、市場効率性、開示情報、取引コスト、比較分析
小松 広明(明海大学 不動産学部 准教授)・曹 雲珍
本研究では、東京都特別区のシングルタイプのマンションに居住する賃借人を対象として、当該建物の建築経過年数と居住者満足度との関連性について分析を行った。
その結果、男女ともに住戸の選定プロセスにおいて、態度レベルに比べて意図レベルでの「建築経過年数」に対する意識が、住戸の選定に大きな影響を与えていることが明らかとなった。また、居住者の建築経過年数に対する満足度は、築後24年を経過すると大幅に低下する傾向にあることが示された。したがって、収益用不動産としての経済的残存耐用年数を維持するうえでは、建築経過年数24年を日途に居住者の満足度の向上に資するリフォーム、リノベーション等に取り組むことが求められるものと考えられる。
キーワード:マンション、建築経過年数、単身者、居住者満足度、AHP、コンジョイント分析、ロジスティック回帰分析
愼 明宏
不動産投資家調査は、本年5月の第30回調査により、調査開始15年の節日を迎えた。この間、日本の不動産投資市場を振り返ると、「J-REIT」の創設や「ファントバブル」、「リーマン・ショック」、「東日本大震災」、「アベノミクス」など、市況の回復から「拡大→縮小・後退→回復」という一連のサイクルを経験したことになるが、投資家調査はこの一連のサイクルの中で、不動産投資家がその時々の市場をどのように捉え行動し、市場のトレンドがどのように変化したのかを図る指標として重要な役割を果たしている。本稿では、投資家調査の15年間を振り返りながら、不動産投資市場の変遷について再確認し、今後の展望を探りたい。
キーワード:日本不動産研究所、不動産投資家調査、期待利回り、J-REIT
中山 献
S51.3.4最高裁判決は、建築協力金として差し入れた保証金の返還債務について、建物所有権を譲り受けた新賃貸人に承継されない旨判示し、その後の判例動向も敷金として認められなければ承継されないとの扱いが定着している。本判決は、土地建物の賃貸借契約締結時に授受された建築協力金を賃貸借契約期間で償還する旨が合意され、償還金と賃料の一部を相殺する旨の契約が定められた事案につき、賃貸人の地位が建物の所有権とともに第三者に移転した後も、当該相殺契約の効力が新賃貸人に及ぶかについて、相殺契約は賃貸借契約の一環として定められたものであるから、本件賃貸借の内容をなすものと認め、賃借人は相殺を主張できると解するのが相当とした。本稿では、本判決がS51最高裁の判旨との比較で特徴的な部分を整理し、その法解釈を紹介する。
キーワード:建築協力金、特別清算手続、賃貸人の地位の承継、相殺契約
外国鑑定理論実務研究会