中川 雅之
国土交通省に設けられた不動産流通市場活性化フォーラムで打ち出された提言の多くは、大量の良質な情報のやりとりを可能とする不動産流通市場の整備につながるものだ。特に、これまでに不動産業者とは異なる職能が担ってきた建物の質に関する情報の収集、提供は、不動産業者自身がその任に当たるよりは、それらの職能を上手にコーディネートするという役割を果たすべきだろう。また売り手と買い手のマッチングを果たすために、米国における民間会社が整備した一元的情報データベース、MLSの取り組みを参考に、十分な規模の経済、ネットワーク外部性を発揮し得る情報提供体制の整備が必要だ。
キーワード:情報の非対称性、仲介、マッチングステージ、バーゲニングステージ
小林 正典
国民生活や経済生活にとって必要不可欠な基盤となっている不動産流通市場をこれまで以上に活性化し、特に良質なストックの流通を促進することは、社会全体のエネルギー負荷の縮減や廃棄物の削減、そして不動産関連事業者の新たな事業展開による経済の活性化といった観点からも、現在の日本において重要な政策課題であると言える。我が国独自の不動産流通システムの構築及び消費者ニーズへの的確な対応や、各種施策の実施により、中古住宅取引について売り主、買い主それぞれの潜在的なニーズを掘り起こし、中古住宅の売買に対するモチベーションを高め、活気に満ちた不動産流通市場の形成を図ることが期待されている。本稿では、不動産流通市場を取り巻く現状を確認し、不動産流通市場活性化フォーラムの内容とそれを踏まえた政策の動向について述べる。
キーワード:不動産流通市場、中古住宅、リフォーム、情報ストックデータ、地域連携協議会
矢部 智仁
日本再生戦略(平成24年7月31日閣議決定)の国土・地域活性化戦略にも記されたように、我が国の住宅政策は「量」の確保から住生活の「質」の向上を追求する時代に転換した。具体的な政策の目標として「良質な住宅ストックの供給と不動産流通市場の活性化」が掲げられ、新築市場だけでなく既存住宅市場も活用した成長施策が実施あるいは検討されようとしている。
本稿では、過去に実施された各種の調査結果を用いて、住宅取引で消費者に起こっている情報に関する不明、不満、不安を明らかにし、これからの住宅市場において消費者に合理的な購買判断を可能にし、住宅取引を活性化させるために必要な情報とはどんなものでどのように提供されるべきかについて考察をする。
八木 正房
世帯を単位とする農業経営が行き詰まる中、平成21年の農地法大改正により、経営の大規模化の流れが整うとともに農外からのリース参入が大きく緩和された。一方、民主党政権となったことにより、小規模農家を支援する戸別所得補償制度が本格導入されることとなった。また、平成23年3月11日には東日本大震災に遭遇し、東北・関東の太平洋側の農地では未曾有の災害を被った。
本稿では、平成22年のモデル事業に引き続き平成23年から本格実施された「戸別所得補償制度」と従来からの家族経営に替わって増加が注目されている「農業法人経営」の状況を分析するとともに、先に発表した「田畑価格及び賃借料調(平成24年3月末現在)」の詳細を報告する。
髙岡 英生
当研究所は平成24年9月末現在の「市街地価格指数」を11月20日に発表した。
「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
① 「六大都市」の地価動向は、前期比[平成24年3月末比]で商業地が0.1%下落、住宅地が0.1%下落、工業地が0.4%下落、
全用途平均が0.2%下落、最高価格地が0.2%上昇となった。各用途とも地価はほぼ横ばい圏内となっている。
② 「六大都市を除く」都市の地価動向は、前期比で商業地が1.6%下落、住宅地が1.2%下落、工業地が1.7%下落、
全用途平均が1.5%下落、最高価格地が1.7%下落となった。各用途とも地価下落が継続しているものの、下落幅は縮小傾向である。
③ 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、東日本大震災の被害が大きかった地域で地価上昇または下落幅縮小といった動きが観測されたため、
「東北地方」では地価の下落幅が大きく縮小した。その他の地方は、下落幅に若干縮小傾向が見られるものの、
ほぼ前回と同程度の地価下落が継続している。
④ 三大都市圏別の地価動向を全用途平均で比較すると、「東京圏」は前期比で0.5%下落、「大阪圏」は同0.6%下落、
「名古屋圏」は同0.2%下落となった。各都市圏とも下落率は小さいが、弱含みの動きが継続している。
⑤ 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺、東京駅丸の内口周辺、日本橋二丁目・中央通り沿い、
新宿駅東口交差点周辺、渋谷駅前スクランブル交差点周辺)の地価動向は、総じて横ばいである。
⑥ 今後半年間の地価動向については、国内外の政治・経済情勢の不透明感が強いため、
地価の大幅な上昇や下落を予測することは困難であり、今回調査と同程度の地価動向が継続する見通しとなった。
※六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
キーワード:市街地価格指数、東北地方、東京区部の主要商業地
手島 健治
当研究所は2012年9月末時点の「全国賃料統計」を11月20日に公表。オフィス賃料は、下落基調が継続するも、全国的に下落幅が縮小し、全国で1.0%下落(前年は2.8%下落)。東京圏や政令指定都市等では、賃料の割安感等から横ばいが増加。また復興需要等が顕在化した東北地方で下落幅が大きく縮小。都市別では、前回横ばいの千代田区・広島市に加えて、札幌市・仙台市・横浜市・福岡市も横ばいとなり、横ばい地点が増加。共同住宅賃料は全国的に弱含みの動きが継続。宮城・福島県では復興需要や原発事故復旧関連需要の顕在化により、上昇・横ばいに転換。1年後については、全体的に下落幅が縮小して、オフィス賃料は全国で0.7%下落に縮小する見通し。共同住宅賃料は弱含みの動きが継続して全国で0.2%下落になる見通し。
キーワード:全国賃料統計、賃料指数、市場動向
廣田 裕二 後藤 健太郎 菊池 慶之 谷 和也 曹 雲珍 吉野 薫 髙岡 英生
当研究所は、「第27回不動産投資家調査」の結果を11月20日に発表した。今回調査は、外部環境には引き続く欧州の金融危機、米国の財政の崖問題、尖閣諸島の問題など不透明な要素が多いものの、良好なファイナンス環境を背景に不動産投資市場に薄日がさす中で実施された。
今回のアンケート結果の特徴は、以下の4点に要約される。
(1)不動産投資家の今後1年間の投資に対するスタンスは、「新規投資を積極的に行う」が89%(前回比+3%)で、リーマンショック後では最も高くなった。一方、「当面、新規投資を控える」は8%(前回比-5%)となり、不動産投資家の新規投資意欲はリーマンショック前の水準に近づきつつある。
(2)Aクラスビルについては、丸の内、大手町地区で期待利回りは4.5%(前回比0.0%)となり、2009年10月以来の横ばいが続いているが、西新宿地区で5.2%(前回比-0.1%)となるなど、期待利回りが低下し始めた都市・エリアも出て来ている。
(3)賃貸住宅については、ワンルームマンションの期待利回りで城南地区が5.5%(前回比-0.1%)となり、リーマンショック後の2009年からみると0.5%の低下となった。また、大阪、名古屋のほか主要な政令指定都市の多くでも利回りの低下が続いている。
(4)商業店舗について、東京銀座地区の都心型高級専門店の期待利回りは4.6%(前回比0.0%)と横ばいとなったが、郊外型SCについては6.5%(前回比-0.1%)と2011年10月からの利回り低下が続いている。
キーワード:不動産投資家調査、利回り、投資意欲、海外、GlobalRealEstateMarketsSurvey
手島 健治 菊池 慶之
日本不動産研究所は、2012年1月の全国オフィスビル調査を実施し、2012年10月17日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
①2012年1月現在の全都市のオフィスビルストックは9,408万㎡(5,853棟)となり、このうち2011年の新築が185万㎡(72棟)と総ストックの約2.0%を占めている。また、2011年の取壊しは68万㎡(43棟)と総ストックの約0.7%にあたる。
②新耐震基準以前に竣工したオフィスビルストックは全都市で2,863万㎡(2,043棟)と総ストックの30%を占めている。都市別では福岡(43%)、札幌(42%)が4割を超えるほか、京都(39%)、大阪(38%)と続いている。
③今後3年間(2012-2014年)の新築計画によると、過去3年間(2009-2011年)の新築量を上回るのは東京のみで、それ以外の都市ではオフィスビルの新規供給はピークアウトの見込みとなっている。
キーワード:全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊
外国鑑定理論実務研究会