2019/07/05 「関係性」を分析するということ

みなさん、こんにちは。

今回は「関係性を分析する」をテーマにしたいと思います。「関係性を分析」というとちょっと「??」と思われる方もいらっしゃると思います。とはいえ、私達が行う不動産鑑定評価の実務では、この関係性をどう捉えるか?ということが大変重要になるのです。もちろん、この「関係性」は人間社会にはなくてはならないものでもあります。関係性の「関」も「係」もどちらも「かかわる」と読みますね。しかし意味は異なります。「関」は関所のような門のところで人が会うような状態と言われ、「係」は人と人とのつながりを表すといわれています。どちらも人と人が出会い、つながるということが「関係」ということになります。それでは不動産と人との関係とは?ということが今回のテーマです。

不動産の「関係性」って何でしょう?

さて、一般的な関係性のお話をすると大事になってしまうので、ここでは不動産をキーワードに「関係性」をお話したいと思います。

土地と人間との関係

不動産鑑定評価の基本的考察(初代理事長櫛田光男著)では、不動産鑑定評価という行為を「不動産のあり方の分析と探求である」と説明します。そして「不動産のあり方」とは何か?という説明の中に関係性が登場します。

「かくして、人間の一般的基盤であるこの土地を、われわれ人間が、各般の目的のためにどのように利用しているかという、土地と人間との「関係」は、不動産のあり方、すなわち不動産がどのように構成され、どのように貢献しているかということに具体的にあらわれるのであります。」

つまり、不動産のあり方とは土地と人間との関係から現れてくる、土地と人間との関係性が「不動産のあり方」であり、これを分析し、探求するのが不動産鑑定評価なのだと説明しているのです。

関係性を分析探究するということ

とはいっても、何のことやら?という方のために、以下のイラストで説明してみます。イラストの下方に「不動産」があり、上方に「人々」がいます。人々は暮らしや社会活動、レジャーや趣味など常に不動産とかかわっています。この「かかわり」を「関係性」と考えます。不動産鑑定評価とは「不動産」、「人々」、そして「関係性」の3つの事柄を観察し、調査・分析して不動産の価値を決定し、「価格」で表すという実践活動なのです。

kankei

「関係性」は見えません

「不動産のあり方」が人と土地との関係性にあるとしても、その関係性は目に見えるものではありません。では、どのようにして目に見えない関係性を分析するのでしょうか?それは目に見えるもの(不動産、人々)を観察分析して、関係性を「見いだす」ということになります。ですから、「不動産」だけ見るとか、「人々」だけ見るという方法では関係性は見えてこないということになります。

人間で「関係性」を例えるとわかりやすい

たとえば、同じ家(一軒家)で初老の男女が毎日一緒に生活しているとします。この場合、ほとんどの場合は「夫婦の関係」だろうと判断できます。また、30代くらいの女性が4歳くらいの子供と手をつないで「こども園」から出てきた場面を見た場合、「親子の関係」だろうと判断できます。このように、他人を見た場合、その人々の行動や会話、態度などで「関係性」を想像することができます。これが「関係性」を考えるというものです。人間の関係性はかなり無意識に判断できると思います。

関係性を分析することが難しくなってきています

「関係性」をもう少しかみ砕くと、「関わり方」あるいは「係わり方」という表現になります。人々は、地域集団や組織集団、職業集団の構成員(メンバー)として、「暗黙のルール」や「物事の善し悪し」「会話のニュアンス」といった共通した理解や規範の中で行動してきました。地元に帰ると「お国言葉(方言)」をためらいなく使って会話することができ、それが逆に親近感や同郷のつながりを意識付けるというような感じです。

かかわりが希薄になった現代社会

関係性が「かかわり」だとすると、不動産と人間との関係性を分析すると言うことは、つまり「人間が歴史的、文化的あるいは社会的、経済的にどのような働きかけを不動産にしているか?」という問いになります。人々の働きかけとは、「こういう暮らしがしたい」とか「こういう活動のために便利にしたい」という地域に所属する住民あるいは集団での共通理解が必要となってきます。

ところが、現代ではこのような地域内、集団内での共通理解が希薄となり、結果的に不動産の価値(有用性)を充分に発揮できなくなっているという状態が多く見られます。

昨今の不動産にまつわる問題に根ざすもの

たとえば「放置空き家問題」、空き家の所有者の事情にも配慮することが必要ですが、結果的に維持管理を放棄してしまったため近隣住民との関係性が悪くなってしまうという状況になってしまいます。「耕作放棄地問題」についても歴史的、地域的な事情はありますが、農業は地域密着性が非常に高いことにより、「よそ者、他人には使ってほしくない」ということもあるかもしれません。「不動産投資問題」は大家と借家人という本来あるべき関係性が希薄になったことにより、信頼関係を前提とする大家業が、貯金や株の投資と同じような感覚になってしまったことも安易に不動産投資に手をつける理由になったかもしれません。

「関係性」は「信頼関係」と「共同体意識」

良好な地域社会は良好な不動産を生み出し、不動産の価値も高まります。良好な地域社会をつくるためには、地域住民間の信頼関係や共同体意識をもった行動規範が重要です。しかもそれは意識的に信頼関係をつくったり、強制的にルールを作るのではなく、自然に構築されるのが理想であり、そのために最も重要なことは、一人一人が仲間を信頼し、助け合って生活するという意識が自然と湧き上がってくることだと感じます。

不動産鑑定士として取り組むべき事

関係性が希薄化した現代社会では、「善し悪し」よりも「損得」で物事を見る方が簡単です。なぜかといえば、「損得」の計算は見えるからだと思います。一方で、善し悪しは地域や集団、あるいは個人によっても判断が異なることがあります。

不動産鑑定士は「不動産のあり方」を分析、探求するために、関係性を見いだす作業が必要となります。この場合大事なことは、損得だけで考える経済人を前提とするのではなく、希薄化した関係性となっている現代社会だからこそ、うっすらとしか見えてこない歴史や文化について理解を深めたうえで、「地域社会の人々の意識や価値観」をよくよく観察することが必要なのだろうと思います。(幸田 仁)