2019/10/01 所有者不明土地とコミュニティ(その3)

みなさん、こんにちは。日本不動産研究所の幸田 仁(こうだ じん)です。

今回は「所有者不明土地とコミュニティ」の最終回としてこれらの関係性を総括し、これから私達が所有者不明土地を減らすためにできることについて考えてみたいと思います。

コミュニティの変化

私達は他者との様々な関わりを通じて社会的活動を行っています。またこれらの活動は元来、学校、企業や団体、PTA、町内会、管理組合などの地域的集団や組織の一員として他者とともに行うことが一般的でした。

社会関係資本(ソーシャルキャピタル)

社会関係資本とは20世紀初め、主にアメリカの教育界で用いられ始めた言葉です。定義については様々あるといわれておりますが、稲葉陽二氏が著作「ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ」で説明されている言葉を借りれば、『人々が他人に対して抱く〈信頼〉、それに「情けは人のためならず」「お互い様」「持ちつ持たれつ」といった言葉に象徴される〈互酬性の規範〉、人や組織の間の〈ネットワーク(絆)〉ということになる。』としています。

働き方の変化

しかし、現在の第四次産業革命とよばれるICT環境の発達によって、分業が高度化し、労働は他者と同じ空間や時間を共有しなくても可能となりました。つまり「働き方」がチーム基準から個人基準へと変化したといえるでしょう。さらに、インターネットの発達と高度化によってオンラインショッピングやネットバンキング、テレワーク、ネットスーパー、SNS、オンラインゲームなどが普及し、ほぼ一日他者と顔を合わせることもなく、会話をすることもなく生活することが可能となりました。

現実社会における関心範囲の変化

人は日常生活の中で、それぞれの環境に適合しながら行動や思考を合わせていく性質を持っています。IT社会の進展は職場環境を大きく変化させ、インターネットの普及はコミュニケーション方法を手紙や電話からSNSに変えました。このようなコミュニケーションの変化と人々の環境への順応は、暮らしの拠点となる地域コミュニティにも大きな影響を与えると感じています。つまり、地域コミュニティはそこで生活する人々のつながりを基礎とする一方で、ICT社会の発達とともに、地理的空間によるつながりよりも、インターネットを通じたつながりが日常的になることで、従来の地理的空間から自己を中心とした関心がある範囲へと変化してきているのではないかと思います。

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所有者不明土地を減らすために

所有者不明土地とは「誰がその土地を所有しているのかわからない土地」ということでした。これは登記制度や相続制度などの制度的な問題が議論されています。所有者不明土地は空き家問題とともに、放置されてしまうと地域環境の悪化を招く可能性もあるでしょう。さらに、地域環境の悪化は地域住民の暮らしにもマイナスの影響を及ぼしてしまうことが大きな問題と考えます。

関心の幅を「ご近所」に広げる

かつての地域社会はご近所さんとのお付き合い、という地理的な結びつきが強固であったからこそ、単に「まち」という物的なもののみならず、そこで生活する人々相互の社会関係資本も充実していたことでしょう。この社会関係資本は、教育や健康などの公共の福祉活動にも大きな役割を果たすといわれています。

とはいえ、既に「隣は誰かわからない」という環境に置かれた状態では、これを簡単に回復することはできません。

そこで、まずはじめにできることは、「自分の周りの土地は誰が所有しているのか?」を調べてみることです。これは公図や地番図を活用すれば、登記情報を取り寄せることで判明します(詳しくはその1を参照ください。)。そして、管理されていない土地や空き家があれば、ご近所さんから所有者のことや放置された経緯を聴くことができるかもしれません。このような「自分の周りから調べてみる」ことを広げることで所有者が不明となった背景や原因などが理解できてくると思います。

土地問題は自身の問題

所有者不明土地や空き家問題は、国や自治体が中心となって対策を講じていますが、やはり一番よくその原因や背景がわかるのは同じ地域で生活している人々だと私は思います。あえてコミュニティを復活させようということではなく、自分の土地を守るということが、ご近所さんとの協力につながり、結果的に地域コミュニティでの活動につながることでしょう。

まずは私達が身の回りの「近い部分」に意識を向けて、コミュニケーションを自発的に取ろうとすることが所有者不明土地のみならず、さまざまな土地問題を解決するための糸口になるのではないでしょうか?(幸田 仁)