みなさんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。
4月7日夕方、安倍首相が「緊急事態宣言」を発令しました。対象区域は首都圏を中心とする7都府県となりました。企業にはテレワークを推進し、夜の繁華街への外出自粛を要請するなど、都市経済に大きな影響を及ぼす可能性が高まっています。
感染拡大を防止するため、国及び緊急事態宣言の対象となった首都圏等では、外出自粛の要請を発表しています。加えて厚生労働省はテレワーク総合ポータルサイトを開設し、在宅勤務のようなテレワーク推進の支援を行っています。
今後、ICT(Information and Communication Technology)やIoT(Internet of Things)など最新の情報処理技術の発達や、SaaS(Software as a Service)やRPA(Robotic Process Automation)など、インターネットを介して利用するアプリケーション、定型的な業務を自動化するシステムなどが続々と提供されることによって、ますますテレワークの導入は広がる可能性を秘めています。
弊所機関誌「不動産研究」の第3巻第1号(昭和36年3月)では、当時弊所鑑定役であった米田敬一が「不動産は生きている」として、オーギュスト・コントの実証科学分類手法になぞらえ、以下のように説明しています。
「彼(オーギュスト・コント)は、生物の特色を二つあげています。その一つは静的状態と動的状態を持っていること、即ち静的とはその器官であり、動的とはその機能であって、しかもそれが不可分に結合している点であり、その二つは生物は独立的に存在することなく、常にその環境と相関的であるということです。不動産はその固体こそ大きく漠然としているが、あらゆるものを登載し抱擁する機能を有し、その使用を有用ならしむるものは人であり、人を載せていよいよ機能を発揮します。」
ここで重要な視点は、不動産が機能的に有用性を発揮するのは人々の活動であり、社会的、経済的環境の変化であるということです。社会的、経済的環境を変化させているのは、我々人間の日々の活動(それは日々の人々の移動や活動が繰り返されること)だということです。
都市は個々の不動産が集まることで形成されています。その構成要素である不動産は絶えず環境の変化にさらされています。また、これらの環境に影響を与える要素は「人間の活動」だといえるでしょう。今後、テレワークによる働き方が変われば、人々の活動も変化し、都市の環境も変化するかもしれません。
私たち不動産鑑定士は、このような環境の変化を敏感に感じ取り、生きている不動産の機能、有用性を追究することが求められます。
今回の緊急事態宣言は約1ヶ月とされていますが、宣言が終了したとしても多くの人々の諸活動に変化を与える可能性があります。テレワーク推進は働き方(スタイル)に対する行動や考え方にも影響を及ぼすとするならば、不動産鑑定評価に際しても環境や人々の活動の変化を注意深く観察していく必要がありそうです。(幸田 仁)