皆さんこんにちは。日本不動産研究所の幸田 仁です。
令和2年は、新型コロナウイルス感染拡大の防止と、経済活動の停滞をどのように克服すべきか、という難題への対応から始まりました。同時に新型コロナウイルスは全世界に広がり、8月23日時点の朝日新聞の報道では国内の累計感染者は62,876人となっています。
ジョンズ・ホプキンズ大学による新型コロナウイルス感染状況では、全世界の感染者数は約23百万人、死者約80万人(いずれも令和2年8月24日時点)となっており予断を許さない状況です。
【ジョンズ・ホプキンズ大学「Coronavirus COVID-19 (2019-nCoV)」サイトより】
読売新聞の報道によれば、令和2年(2020年)4月~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質ベースで前期比マイナス7.8%となり、このペースが1年続くと仮定した年率換算ではマイナス27.8%となり、戦後最大の落ち込みと報道されています。全国展開する居酒屋や飲食店などのチェーン店の閉店や人員削減、航空会社の減便に伴う資金不足、観光地での旅館やホテルの廃業など、人の移動や飲食、旅行等に関わる業界での打撃は相当大きなものとなっているようです。
新型コロナ感染対策としていつまでも外出自粛を続けるわけにはいきません。そのため、厚生労働省からはソーシャルディスタンス、マスクと消毒、「3密」を避けるといった「新しい生活様式」の実践を奨励し、勤務形態についてはテレワークや時差出勤への対応を促しています。また、令和2年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」、いわゆる骨太の方針では「新たな日常」の実現としてデジタル化への集中投資(デジタルニューディール)を進めることとし、デジタルガバメント、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などを掲げています。
皆さんは「ブラック・スワン問題」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ナシーム・ニコラス・タレブ氏の著書がもととなった言葉で、巨大な影響をもたらす、大規模で、予測不能で、突発的な事象を意味するとされています。
タレブ氏は、現代社会を不確実で先が予測できない状況、つまりランダム性に富んだ無秩序な世の中に突入しているとし、このような社会ではこれまでの経験や合理的であるように見える理論では乗り越えることが難しい、という意味で「反脆弱性(Antifragile)」をもつ生き方を提唱しています。反脆弱な生き方について、タレブ氏は様々な例を説明しつつ、結局「試行錯誤してみる」ことだとしています。
タレブ氏の面白いところは、脆弱な状態を生み出す人々のことを「フラジリスタ」と名付けていることです。フラジリスタは科学的知識を過大評価する人達として、医療や政治、金融業界にも大勢いると唱えており、そのイメージを「決まってスーツにネクタイという身なりで、ジョークを投げても能面のような表情を返してくる。椅子の座りすぎ、飛行機の乗りすぎ、新聞の読みすぎで、若いうちから早くも腰を痛めていることが多い。それから、カイギとかいう奇妙な儀式によく参加する。それに加えて、自分に見えないものはそこにない、理解できないものは存在していないと思い込んでいる。」人たちとしています。なんとも含みをもった言い方をするものだと感じました。
弊所では、昭和37年(1962年)10月以来、完全週休2日を実施しています。弊所機関誌「不動産研究第16巻第2号(1974年4月)」にて初代理事長の櫛田が寄稿した曙雑記(ⅩⅣ)によれば、「鮨詰めの電車で片道平均1時間半往復3時間を必要とするような激しい交通事情の下に、土曜半日出勤ということは人的エネルギーの無駄な消費に過すぎないのではないかとの反省のもとに10月から断行した」とし、毎週土曜日は「研究の日」として、自由なテーマについて研究する時間が与えられていました。この「研究の日」については、ダイヤモンド社より昭和48年(1973年)3月に発刊された「日本不動産研究所の歩み-不動産の研究と鑑定評価をひとすじに-」でも紹介されています。当書籍によると「『研究の日』の制定」は当書籍の発刊当時でも多くの議論を呼び、実現の方向に徐々に動き出していたことに対して、その10年も前に実行することは”櫛田の英断である”と前置きした上で、以下のように記述しています。
「櫛田理事長は、職員に対して不断の読書による勉強を提唱している。研究所を時代とともに発展させるためにも、全職員がつねに問題意識を持ち、疑似体験が結晶している書籍から新しい経験を学びとること、それが職員個人の成長に資するとともに研究所総体の成長に繋がる。こうした自己研究と錬磨の機会に“研究の日”が使われるならばという理事長の願いが、この研究の日のあり方に込められているのである。」
研究とは自ら課題や問題を発見し、探究し、自己の能力を磨き上げ、解決する糸口を見出すことができる専門家が結集してこそ、本物の専門家集団として機能するという信念のもと、時代の雰囲気に迎合することなく実践した櫛田の「人材が宝である」という思いが伝わる気がします。
「一寸先は闇」のような現代社会、これまでのセオリーが通用しない時代、私たちはどうすればよいのでしょか?一つはタレブ氏の言うように「反脆弱な考え方」をもつことかもしれません。 不確実性が拡大する時代は、言い換えれば「模範解答がない時代」といえるでしょう。模範解答を求めた時代は終焉を迎え、模範解答以外にどれだけの解答を見つけ出せるか?これがこれからの人生を楽しむ方法なのではないでしょうか? (幸田 仁)