皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁(こうだ じん)です。
昨年からの世界的なコロナ感染拡大が収まらず、日本国内では医療体勢が逼迫し、自宅療養中に亡くなってしまうという悲しいニュースが入ってきます。政治・経済が混乱し、見えない恐怖を多く人々が抱いていることと思います。
さて、今回は不動産鑑定評価における不動産に対する「見方」を紹介しながら、私達がこの難局を乗り越えるために再認識すべきことについて考えていきたいと思います。
不動産鑑定評価は対象不動産の価格を決定するために、不動産をよく観察することから始まります。さらに鑑定評価においては、対象不動産の属する地域も詳細に分析します。
対象不動産を「点」とするならば、その点が含まれる地域、つまり「面」も同時に分析しています。このように、不動産鑑定評価は対象不動産という「点」と、その点が集まった地域としての「面」を同時に分析しながら実務を行っています。
このように、不動産鑑定評価は、不動産の「点」と「面」を分析することといえますが、この分析にあたっては「線」も重要な要素です。私は「線」を「時間軸の線」と捉えます。過去から現在、そ して未来へと繋がる時間軸です。
千葉県船橋市には、道路がきれいな円形をした住宅地域が存在します。現地ではわかりにくいのですが、地図でみるとはっきりと円形になっていることがわかります。
この道路が何故「円形」なのか、これは時間軸の目線で考えないとわかりません。
時間軸を遡り、戦後直後の航空写真を見ると以下のように、中心部分に何かの施設があり、うっすらとですが、施設の回りを取り囲むように円形の道路が通っていることがわかります。
この場所は、かつて海軍の無線通信基地があった場所なのです。昭和16年12月の真珠湾攻撃開始を告げる暗号「ニイタカヤマノボレ1208」もこの無線基地から発進されました(詳しくは船橋市ホームページ参照)。
不動産を観察する場合、その不動産を中心に地域や都市の“現状”に注目しがちですが、大切なのは、そこになぜ都市ができたのか、衰退した街は、かつてどのような産業で栄えたのかを探究することです。弊所初代理事長である櫛田光男が、不動産の本質として「文化的歴史的所産」と表現したのは、この時間軸という「線」を意識したものではないかと感じます。
都市(不動産)は、先人が長い時間をかけて困難を克服し、地理的条件や時代ごとの制度や習俗、信仰などによって徐々に発達し、築き上げられています。
かつて、岩手県の三陸沿いを移動していたとき、いくつもの石碑が建っており、この石碑には「ここまで津波が押し寄せた」といった文字が刻まれていました。100年以上も前に、津波が押し寄せた記録を石碑として残した先人に深い感動を覚えました。しかし、これらの石碑による警告も虚しく、かの大津波によって多くの人々の命が失われてしまったことはとても悲しい出来事だと感じました。
人にも、点と面は、あてはまります。人を「点」とすれば、人が所属する諸集団(家族、職場、友人、サークルなど)が「面」にあたると考えます。集団の一員としての個人は、行動規範や思考のクセ、価値観を他人と共有しながら関係性を築いています。
人にとっての線を時間軸とすれば、それは先祖から自分に至るまでの歴史的な時間軸です。端的に言えば、先人(先祖)が多くの困難を乗り越えてきたおかげで今の自分がある、という感覚だと思います。人間も都市(不動産)と同じように、過去の歴史の延長線上に自分の存在と価値観や行動規範が成立しているのです。
都市(不動産)は、歴史的時間軸という線の延長にあり、線は様々な要因によって方向が変わります。今回のコロナ感染対策によっても都市機能の多くが変化し、人々もこの困難を乗り越えるために日々奮闘しています。
時間軸という「線」を意識したとき、今の自分があるのは先人がバトンを渡してくれた結果と気付かされます。ならば私達も次世代の人々にバトンを渡さなければなりません。そして渡すべきバトンは、より良い社会につなげるバトンです。様々な困難に直面している今こそ、自分が次世代につなげる「バトン」について、しっかりと考えることが重要ではないでしょうか。(幸田 仁)