2021/09/25 都市の高齢化、人口の高齢化

皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。

9月20日は敬老の日ということで、2015年の国勢調査を基にした65才以上の人口推計が総務省より公表されました。高齢化率(65才以上の割合)は29.1%と過去最高を更新し、およそ3人弱に1人が高齢者となりました。

今回は、老朽化した分譲マンションの管理に関する事例を紹介し、高齢者化都市社会に対する不動産鑑定士の役割について考えてみたいと思います。

分譲マンションの管理に関するある報道

築後40年以上の中規模分譲マンションで、管理を委託していたマンション管理会社から、委託契約を突然打ち切られたという報道がありました。管理を継続するには、管理費の値上げや修繕工事を行う必要があるのですが、住民に負担をお願いしても断られてしまったことが理由ではないかとのことです。

また、近年の人材不足や工事費の値上がりで、分譲してから40年以上経過した数十戸程度の分譲マンションでは、マンション管理会社の利益も薄く、管理の継続を断られるケースが増えているとのことでした。

マンションの高齢化と住民の高齢化

マンション管理は、全所有者が建物全体を共同で管理する必要があります。通常は管理組合などの組織を設立し、住民が公平に費用と役割を分担しながら活動します。

分譲後しばらくは、管理上大きな問題は生じないことがほとんどです。しかし、時が経てば分譲マンションも古くなり、様々な不具合や修繕・改修が必要になります。場合によっては、耐震改修工事費用の負担など、多額の支出を伴う厳しい決断を迫られる場面も出てきます。しかし、古いマンションは住民も高齢化しているため、管理組合の運営自体が負担になりますので、マンションが古くなるほど、ますますマンション管理会社頼りになりがちです。

高齢化都市の課題

国土交通省の調査によれば、築後30年以上を経過した分譲マンションの戸数は下図のとおりです。築40年超の分譲マンションは、令和2年末時点で103.3万戸存しますが、20年後には約4倍の404.6万戸にまで増加する見込みです。

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労働人口の減少が生み出す様々な課題

高齢化の進行は、都市全体として、15歳~65歳までの労働者人口(正式には生産年齢人口といいます)の減少を意味します。

管理会社としても、企業活動として管理費や修繕費の増額を求めざるを得ませんが、高齢化した住民にとって、費用増は大きな負担となり、管理会社と住民側で費用負担に関する対立構造が生じます。今後は老朽化する分譲マンションの増加と住民の高齢化によって、このようなケースは益々増え続けることでしょう。

都市の成長から暮らしの豊かさへの転換

戦後の高度経済成長や土地価格の値上がり(土地神話)によって、日本経済と都市は共に発展を遂げてきました。しかし、1990年代以降のバブル崩壊から30年が経過した現在でも、人々の意識には成長主義、開発主義がすり込まれ、都市は開発され発展するものだというイメージが定着しているように感じます。

今後、地方都市を皮切りに徐々に「都市の高齢化」が加速していきます。同時に市民も高齢化するのです。前述の老朽化した分譲マンションの事例のように、利益重視、市場競争原理による企業活動のみでは様々な歪みが生じる可能性も高まるのではないでしょうか。

都市と住民は、暮らしや仕事を通じて密接に関係しています。「都市の高齢化」と「住民の高齢化」は、これまでのような開発・成長主義に加えて、「住民が安心して暮らせる豊かさ」への配慮が強く求められることになるでしょう。

不動産鑑定士にとっても、安易に市場原理に追随するのみではなく、高齢化というキーワードを意識した「不動産のあり方」を探究し、「豊かさ」に関する都市の価値、不動産の価値を見極めなければならないのではないでしょうか。(幸田 仁)