資産ソリューション部 環境室長 蓮見清彦
DBJ Green Building認証は、「環境・社会への配慮」がなされた不動産(Green Building)を支援するために、2011年に日本政策投資銀行(DBJ)が創設した認証制度です。個別の建築物の環境性能を総合的に評価する認証制度であり、日本では同認証のほか、CASBEE、米国発祥のLEEDが普及しています。
日本不動産研究所(以下、「当研究所」)は、不動産に関する調査機関として、建物の省エネルギー性能などの環境不動産についての調査・研究を続けています。その知見を活かし、認証制度の普及を通じて不動産における環境・社会への配慮を促進するため、2010年のDBJとの認証制度共同研究を通じて、2011年、DBJとDBJ Green Building認証制度に関する業務協力協定を締結しました。更に、2014年にはDBJと当研究所による共同運営体制に移行し、当研究所による認証業務を開始するとともに、認証取得物件の経済価値に関する市場感応度の検証を開始しました。その後、認証件数の増加に伴い認証制度の運営と認証業務は独立で行うこととし、2017年8月より全ての認証業務は当研究所が単独で行うことになり、現在に至っています。
DBJ Green Building認証は、不動産の環境性能といったハードスペック面に加え、事業者の運営面にも着目した認証制度です。これにより築年の経過した既存物件においてもESG投資を通じた事業者の取り組みを可視化できるツールとなっています。また、建築・設計の技術的専門家に限らない不動産に携わる幅広い層のステークホルダーが利用できる簡易性を重視した内容に加え、環境・社会への配慮に関する取り組みについての実務的なコミュニケーションにも焦点をあてた点が特徴となっています。
認証は5つの評価軸による総合的な評価を行っています(図1)。すなわち、建物の環境性能を表すEnergy & Resources、テナント利用者の快適性を表すAmenity、多様性・周辺環境への配慮を表すCommunity & Diversity、ステークホルダーとの協働を表すPartnership、危機に対する対応力を表すResilience、の5項目がESGの各項目に対応しています。
認証の件数は2021年3月末時点で、1073件付与しています(図2)。アセット別ではオフィスが4割強、レジデンスが2割強を占め、ここ2年間ではレジデンスの依頼が増加しています。
認証の依頼者は、当初はJ-REITが中心でしたが、その後、私募REITや私募ファンドに拡大しました。昨年10月の菅首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降は、不動産デベロッパーの依頼が増加しており、開発段階から積極的に環境配慮を行う姿勢がより強まっています。
認証は「環境・社会への配慮」を“十分”行っている不動産に対し、5つ星から1つ星を付与しています。認証制度としては、星(プライズ)の数は何であれ、認証を取得することでブランド価値が生まれる制度を目指しています(図3)。また、星の目安として、例えば3つ星は、1つ星水準を超える集合体の上位約60%となるように基準を設定しています。尚、この割合は星(プライズ)のイメージを示したものであり、実際の認証は点数による絶対評価で行われます。
認証制度の取得効果として、事業者の日頃の取り組みが「見える化」され、一定水準以上にあることをアピールすることが可能になります。その結果、売買市場における物件の流通性が高まるだけでなく、テナントが入居先を決める際の決め手の一つになるケースもあり、オフィスでは就職希望の学生が増加するなど、人材の確保にも影響しています。
また、設備改修時の羅針盤としても活用することができます。建物は継続的な改修が必要となりますが、投資を行うにあたり貴重な資金をどこに向けるべきか、認証を取得することで優先順位を付ける際の参考になります。実際、設問項目を参考に今後の改修内容を決めている、という事業者も少なくないようです。
さらには、将来の規制強化への備えとなることが期待できます。諸外国では環境認証取得の義務化や、エネルギー性能が一定レベルに達しない物件の賃貸が違法になっている国もあります。
なお、当研究所では、DBJ Green Building認証を取得した物件とそうでない物件の賃料と利回りの関係を継続的に分析しており、認証取得が物件の賃料単価にプラスの相関があるという推定結果が得られています。
DBJ Green Building認証では、評価モデル(スコアリングモデル)の陳腐化を防ぐため、毎年評価モデルの見直しを行っています。不動産へのESG投資の普及とともに環境性能に加え健康性や快適性に拡がり、かつ、コロナ禍や気候変動を通じて、安全性といったSの要素が注目されています。また、遵法性やディスクロージャーといったGも重要なので、評価モデルを継続的に見直すことで、これらE、S、Gが常にバランス良く盛り込まれることを目指しています。
最近の改正では、2021年8月より、日本の不動産の環境認証制度として初めて、不動産における木材利用の取り組みを評価する仕組みを導入しました。木材は大気中からCO2を取り込み炭素として固定し、また、鉄やコンクリート等の資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ないことから、その建築利用は不動産部門のライフサイクルCO2の削減につながると期待されます。さらに、伐採適齢期を迎えた森林ストックの活用や、FSC認証等の認証材は林業サプライチェーンの整備にも資するため、木材利用はESGの観点からグリーンビルの大事な要素の一つといえます。
今後も時代の変化に対応しながら、DBJ Green Building認証を、シンプルかつ有用性の高い、利用者にとって使いやすいものに進化させていくことで、事業者の持続的な取り組みをサポートしていきたいと考えています。
(不動産研究 第63巻第4号「特集:Jリート20年」より 資産ソリューション部 環境室長 蓮見清彦)