皆さんこんにちは、日本不動産研究所の幸田 仁です。
最近、小学生の息子が、学校から支給されたパソコンを使って宿題をしているのを見て驚きました。プレゼン用アプリケーションを使って宿題を作成しているのです。イラストやテキストをうまく配置して見やすく調整していました。さらに原稿提出は、学校が指定したクラウドの格納場所に送信し、課題が終わると、「送信して課題完了!」とさくっとこなしていたのです。これがデジタル社会かという衝撃と期待が生まれました。
【小中学校で支給されているGIGA端末(PC)】
今回はデジタル社会という技術の発達に対して、我々不動産鑑定士はどう対応すべきかについて考えてみたいと思います。
令和2年7月7日に文科省が発表した「GIGAスクール構想について」によれば、1人1台のパソコンを与えることで、検索サイト利用による調べ学習、プレゼンソフト等の利用、生徒ごとの学習進捗に応じた教材を提供することなどが可能になるとしています。
さらに、STEAM教育という「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)」を重点とした教育を行う事で、探究力や創造力を育て、自由な感性を身につけ、複雑化した社会に柔軟に対応し、「社会の課題を統合」できる人材を育成するというものでした。
学校から支給されたパソコンでアプリを活用し、文書作成やグループディスカッションをアプリ上で行う。そんなことが小中学校で進んでいます。
高校に進む頃はプログラムの書き方を通じて、パソコンを動かし、デジタル機器に対する違和感やアプリの操作に対する抵抗感などの意識は無くなることでしょう。
急速に発達するデジタル社会に対して、容易に適応できる人間は多くはないのではないでしょうか。
人間は成長過程で属する社会集団(家族、学校、地域など)の影響を受けながら、個人の価値観や行動規範が形成され成長していきます。
長い期間をかけて形成された価値観や行動規範はそうそう変わりません。例えば、日本で生まれ育った人間は無意識で日本語を話しますが、大人になって英語を話すためには英語を学び、意識的に英語を使わなければなりません。意識と無意識の大きな違いです。
人間は当たり前という意識を転換することは大の苦手です。急速なデジタル化を当たり前のように(自明のこととして)向き合うためには相当の努力が必要でしょう。
さて、ここで話は大きくかわりますが、「不動産鑑定評価基準」が成立した当時を振り返ってみます。
不動産鑑定評価基準は昭和39年3月25日に、宅地制度審議会によって産声をあげました。この答申には前文があり、その中に「基準の性格」として以下のような言葉が附されています。
「不動産の鑑定評価は、個々の不動産を対象とする具体的な実践活動にほかならないのであるから、その基礎となる理論は、実践理論のカテゴリーに属し、それ自体、発展の過程にあるものである」
「この基準は、(中略)鑑定評価の理論自体が発展の過程にあるのであるから、厳密な意味においては中間的なものであって、事実の進展に応じて、今後その充実と改善とを期すべきものである。」
不動産鑑定評価基準が答申されてから半世紀以上が経ちました。そして現在、第四次産業革命といわれるデジタル社会が到来しました。
「社会経済の進展」は答申時においても十分に予測されており、将来の基準の充実と改善に期待したいと述べています。
もう一つは「実践理論」であると強調していることです。この実践理論については機関誌「不動産研究第7巻第2号」で米田敬一氏が実践の意義と意味について以下のように語っています。
「実践とは人生によりよく適合する労働や、よりよき社会環境を創りあげていく行為であり、これらの行為(行動)を外部に働きかけ、この働きかけによって変革した社会に対して、人間自らを変革する積極的な反省行為を含むのである」
高度デジタル社会へと急速に変化している中では、我々不動産鑑定士もまた実践理論について改めて考える必要があります。益々進展するデジタル社会に目を背けることなく、人間にとっては困難な意識の変革を乗り越え、これからの社会(それは新たな価値観をもつ人々を包含する社会)に不動産鑑定士自らが適合し、よりよい社会に貢献できる専門職業家となることが求められているのです。
(幸田 仁)