本稿では、固定資産税評価の概要とともに、日本不動産研究所(以下、「当研究所」)において固定資産税評価支援業務を中心的に担ってきた公共部のこれまでを振り返り、近時の動向等について紹介します。
固定資産税は、昭和25年の地方税制度の根本的改革に伴い創設された地方税で、固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて課税される財産税である。
固定資産税は住民税とともに市町村財政を支える基幹税であり、市町村が課税主体となり実施する固定資産税評価を通じて算定された課税標準を基礎として賦課される。従って、この固定資産税評価の精度は、市町村の適正な税収確保及び納税者に対する公平な課税の実現において十分に保たれる必要がある。
なお、特に土地評価について、代表的な公的評価制度である地価公示と固定資産税評価とを対比すると、下表のとおりとなる。
固定資産税評価における標準宅地の価格は、地価公示又は地価調査の価格が活用される場合と、直接、不動産鑑定士等による鑑定評価を行うことにより求められる場合がある。表1の標準宅地等の数からも分かるとおり、地価公示地点数と比較して固定資産税評価のために実施される鑑定評価の地点数は圧倒的に多く、固定資産税評価の適正な実施のためには、多くの不動産鑑定士による鑑定評価が不可欠なものとなっている。
昭和43年10月、当時、当研究所内においては鑑定評価へのコンピューター導入に向けた検討が進められていたこともあり、現・公共部の前身となる「システム開発室」が設置された。そして、その翌年には、評価システムの開発研究の成果を活用した不動産コンサルティング業務の拡大等を目的に、システム開発室は「システム開発部」と改められた。
その後、昭和63年4月に、システム開発部はシステム開発部とコンサルタント部とに分割され、平成7年10月にシステム開発部から「システム評価部」へ、平成26年に「公共部」へと改編が行われた。当研究所では、昭和40年代の中頃から土地評価手法のシステム化に関する研究を始めており、その成果を基にして開発した『宅地の路線価評価システム』を活用し、昭和57年度の評価替えにおいて、宅地の路線価付設業務を受託した。これを大きな足掛かりとして、これまで、多くの市町村の固定資産税評価支援を行ってきた。
また、土地の路線価業務以外にも、家屋評価の支援業務や、所要の補正等の調査業務などを行ってきたほか、総務省や一般財団法人資産評価システム研究センターの調査業務等を通じて、市町村における固定資産税評価実務上の課題を固定資産評価基準の内容面及び運用面にどのように反映すべきかを検討・提案してきたところである。
上記のとおり、当研究所においては宅地の路線価付設業務受託後40年を超えた固定資産税評価支援業務の実績を有する。そして、令和6基準年度評価替えに向けた準備がなされる今なお、市町村の有する課題解決に向け、多くの支援業務を実施している。
これは、固定資産税が地方税の根幹たる地位を占め、市町村において不可欠なものである一方、時の経過に伴い固定資産税評価を取り巻く状況は刻一刻と変化し、市町村において対応すべき課題が常に尽きないためである。近時において顕在化しつつある市町村の課題及びこれに対応する固定資産税評価業務の傾向を以下のとおり整理した。
(1)評価の透明性確保
郊外部においては未利用地・低利用地が増加し不動産維持コストに対する意識が高まる一方、都心部では不動産が投資対象として成熟し公租公課についても十分な情報が求められるなど、固定資産税に関する意識は高まっている。また、平成16年度からは『全国地価マップ』としてインターネットで路線価が公開され固定資産税評価の結果がより開示される傾向にあることから、市町村においては、適正な固定資産税評価とともに、これらについて客観的に説明しうる十分な評価根拠を備える必要性が高まっている。
例えば、路線価の比準格差率、個々の土地に適用する格差率等についても、周辺市町村の率をそのまま採用するような対応は難しくなっている。このため支援業務の一環として、各市町村の実情に適したオリジナルの格差率を、当該市町村担当の当研究所支社・支所等における不動産鑑定評価の知見等を活用して算定するような業務ニーズが増している。
(2)災害等への対応
近時においては、平成30年西日本豪雨、令和元年東日本台風等の大規模水害が続いており、被災市町村を中心として、それらの影響を適切に固定資産税評価に反映させる必要があった。当研究所においては公共部が中心となりこの支援を行っており、同時に行う相続税評価に関する支援の過程において把握した情報等をも活用し、大規模災害への課税・評価上の対応についてスピード感を持って支援している。(詳細は、季刊不動産研究2021年4月号「大規模災害と課税土地評価について」をご覧頂きたい。)
(3)市町村内における知識伝達
政令市などを含めても税務部門の職員数は減少傾向にあり、人事ローテーションの早期化も相まって、市町村にあってはこれまでのようなベテラン職員による個別的・属人的な技術伝承などが期待し難くなっている。このため市町村においては、これまでよく見られた税務に関連する単純作業業務の外注に加え、近時は税務に関する知識面についても、業務として委託する、という傾向も見られる。当研究所においても「税務職員への対面による助言」や「課税事務の研修会」など、これまで市町村内部で行っていたものについて支援業務として受託し、実施している例もある。
固定資産税評価関連では、公平で適正な課税評価実施のために、これからも様々な環境変化や課題等が生じることが考えられる。当研究所は、当該業務で長年培ってきた知見や経験等を活かしながら、そうした環境変化や課題等に適切に取組み、市町村における適正な固定資産税評価の実施に今後も貢献していく。
(「不動産研究」第64巻第2号 特集:環境意識の高まりと不動産より 公共部 主席専門役 堤信爾)