2022/12/21 【JREI Think-Tank Eyes】#5 日銀の政策修正-歓迎できないネガティブサプライズ

日銀の政策修正-歓迎できないネガティブサプライズ

執筆者:研究部 不動産エコノミスト 吉野薫
2022年12月21日


 日本銀行は2022年12月19日、20日に行われた政策決定会合で、長期国債の金利の変動許容幅を±0.25%から±0.5%に拡大することを決めました。日銀はこの政策変更を「長短金利操作の運用の一部見直し」であるとして、利上げでも金融引き締めでもないと説明しています。しかし市場は日銀が長期金利の上昇を事実上許容したものと見做しており、「長短金利操作」を通じた緩和的金融政策を手じまいする第一歩であると指摘する向きさえもあります。

 筆者は今回の政策変更が不動産市場に与える直接的な影響は軽微であると考えています。その理由としては、短期金利が依然として低水準に抑制されているため、金融機関の調達コストが上昇しておらず、したがって投資用不動産市場に対するデットファイナンスコストや住宅ローンの変動金利の上昇要因にはなりがたいことが挙げられます。それでも社債の起債コストや住宅ローン固定金利には一定の上昇圧力が掛かるでしょうから、不動産市況を巡るコスト面でのリスクとして意識されるところです。

 それよりも、今回のようなサプライズ的な手法によって金融政策を変更すること自体、不動産市場の安定的・持続的な発展を図る上で全く望ましいものではない、と筆者は問題視しています。

 そもそも今回の政策変更を予想していた市場関係者は事実上皆無だったのではないでしょうか。今年の5月に日銀の内田真一理事が参議院の答弁で「変動幅の拡大は事実上の利上げである」旨を述べてその可能性を打ち消しており、それが日銀の公式見解であると捉えられていました。Bloomberg社が今月実施した調査では、エコノミスト47人全員が今回の決定会合で現状維持を予想していました(図表1)。

図表1:12月の決定会合に対するエコノミストの予測

(注)調査対象のエコノミストは47人。調査期間は2022年12月7日から12月12日まで。
(出所)Bloomberg

 今回のサプライズによって、日銀と市場との信頼関係は大きく損なわれたと筆者は認識しています。市場参加者が次なるサプライズに対する疑心暗鬼を募らせることになれば、先行きの金融環境に対する予見可能性が低下することで、不動産を含むリスク資産に対する市場参加者のマインドを悪化させることが懸念されます。「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」とする指針(フォワード・ガイダンス)や、「消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」との約束(オーバーシュート型コミットメント)の有効性も阻害され、金融緩和の効果自体が削がれることにもなりかねません。また今回長期金利の変動許容幅を拡大しても、0.5%という水準を死守するという硬直的な政策手段(連続指値オペ)は維持されており、日銀のさらなる政策変更を試す動きが一段と強まる可能性もあることでしょう。

 過去の不動産市況の悪化はしばしば市場機能の不全によって引き起こされました。今回の政策変更が市場参加者の行動や態度の変化に直結して、不動産市場の価格形成機能そのものが損なわれることになる確率が高まったとまでは申さないまでも、潜在的にそのような可能性があることに対してはこれまで以上に怠りなく警戒する必要がありそうです。

 なお今回の政策変更は早速不動産株やJ-REITに対して大きなストレスを与えましたので、本稿の最後にそのことを申し添えたいと思います。2022年12月20日のTOPIXが前日比▲1.5%であったのに対して、TOPIX不動産業指数は33業種のうち騰落率最下位の同▲4.3%、東証REIT指数は同▲5.3%でした(図表2)。

図表2:2022年12月20日のTOPIX業種別指数と東証REIT指数の騰落率(対前日終値)

(出所)Bloomberg

(一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野薫)


※当コラムで示される見解は個々の執筆者個人に属するものであり、必ずしも日本不動産研究所の見解を代表するものではございません。