2023年1月17日
不動産分野におけるレジリエンス検討委員会
(D-ismプロジェクト)
一般財団法人日本不動産研究所
(以下、五十音順)
株式会社イー・アール・エス
株式会社建設技術研究所
CSRデザイン環境投資顧問株式会社
野村不動産投資顧問株式会社ほか
近年我が国では、地震、津波、高潮、水害、土砂災害など、様々な自然災害が多発する傾向にあります。特に水害に注目してみると、令和元年東日本台風(2019年10月)を始めとする大型台風や局地的豪雨により、各地で甚大な被害がもたらされました。自然災害に対する都市や建物の被害を最小化し、災害後のレジリエンス(弾性力、回復力)を高め、人々の安全・安心につなげていくことは、私たち不動産に携わる者にとって、今や重要な責務の一つとなっております。
そのためには、まず自然災害に対して個々の不動産(建物)が有するリスクとそれに対する対策の効果をきちんと把握し、評価・可視化することが重要です。このことにより、不動産に関わるステークホルダー(不動産オーナー、テナント・利用者、投資家・金融機関、デベロッパー・設計会社等)がそれぞれの意思決定を行う際に、不動産のレジリエンスのグレード(程度)を判断しやすくなるからです。
しかしながら、我が国にはこれまでそのような不動産のレジリエンスを可視化する仕組みは存在していませんでした。
一方、海外では気候変動リスクを分析するツールが公開されていますが、その対象を我が国の不動産にあてはめてみると、その災害リスクは、高潮などの慢性リスクであったり、評価の方法が立地条件のみで判断されるなど、我が国の特性に合っていないという課題がありました。我が国では、足下の課題として台風や豪雨などの急性リスクがより問題になっていますし、また、多くの都市が沖積平野に存在しており浸水被害を受けやすいことを踏まえれば、土地だけでなく、建物の頑強性能や冗長性能、人が介在するソフト面の即応性能などの対策も考慮しないと実物不動産のレジリエンス評価を適切に行うことが出来ないと考えております。
図表1 気候リスク評価ツールの現状と課題
そこで、2019年に一般財団法人、民間企業の7社により「不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(D-ismプロジェクト)」を発足させ、業界横断的な検討を重ねた結果、この度「不動産のレジリエンス」を可視化する本邦初の認証サービス「ResReal」を創設し、2023年1月27日からサービスを開始することとしました。(同日に、公開セミナーを開催予定)
ResRealは個々の不動産の災害に対するレジリエンスをスコア化し、そのスコアに応じてプラチナ~スタンダードの5段階で認証が付与される仕組みです。ResRealの活用によって、自然災害に強い、レジリエントな不動産の開発・運用が可能となります。このような不動産を増やすことで、地域や街のレジリエンスが向上し、最終的には「人々の安全・安心な生活を紡ぎたい」と考えております。
なお、将来的には、水害以外の災害(高潮、地震・津波、土砂災害、噴火、猛暑)にも認証の対象範囲を拡大するとともに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)における物理的リスク開示に資するものとなるよう制度の拡張、開発を進めていきたいと考えています。
スコアリングは、不動産のレジリエンスを構成する4つの観点(①頑強性②冗長性③即応性④代替性)から、土地、建物及び運用についてそれぞれ評価します。立地条件だけでなく、建物の設計や設備の違い、運用面の対策によって、レジリエンスに大きな違いが生ずるということを、経験上理解しているからです。
このため、同一の立地条件にある建物であっても、これらのハード・ソフト対策を講ずることによって、レジリエンスの評価が高まるような仕組みを構築しました。
このように、土地情報だけでなく、建物や運用面を加えて体系的に評価する仕組みは海外にも例がありません。したがって「日本発の個別不動産レジリエンス評価ツール」と言っても過言ではありません。
図表2 スコアリングの構成
図表3 スコアリングのイメージ
スコアリングの手順は、依頼者がスコアリングシートに個別不動産の情報を記入し、認証機関に提出します。認証機関は評価機関(詳細は後述)と連携のうえ、提出されたスコアリングシートの内容を評価し、100点満点でスコア化します。
認証ランクは、最もレジリエンスが高いプラチナからスタンダードまでの5段階評価です。特にプラチナは上記の4つの要素がほぼ満点であることに加えて、先進的な取組を行っている必要があり、プラチナを獲得することは非常にハードルが高い設計となっています。
図表4 認証ランク
また、評価メニューは、あらゆる自然災害をカバーしたいという想いから、水害、高潮、地震・津波、土砂災害、噴火、猛暑の6つのメニューを予定しています。2023年1月27日に水害版から運用開始し、今後順次拡張していく予定です。
図表5 評価メニュー
認証名ResRealは、「Resilience」と「Real Estate」を掛け合わせた名称です。災害から立上がり、従前よりも強く回復していく不動産という意味を込めています。また、ロゴマークは6色が6つの自然災害を示しており、これらから不動産が将来にわたりレジリエンスが向上していく姿や持続していく不動産を表現しています。
図表6 認証名とロゴマーク
認証スキームは図のとおり、一般財団法人日本不動産研究所が認証機関として依頼の受付及び認証の付与を行います。認証ランクの判定に必要となる個別不動産のレジリエンス評価(スコアリング)については、株式会社イー・アール・エスと株式会社建設技術研究所が担当します。本プロジェクトメンバーに含まれる資産運用会社は、運用開始後においてはこの認証スキームには一切関わりません。
また、認証・評価を行う上記3社に対するガバナンス機能として「アドバイザリー委員会」の組成を予定しております。さらに、今後スコアリングの仕組みを変更する際、「レジリエンス評価改訂部会」から技術的・専門的アドバイスの提供を受けるスキームを構築します。なお、アドバイザリー委員会及びレジリエンス評価改訂部会についても、本プロジェクトメンバーに含まれる資産運用会社は関与しない仕組みといたします。
図表7 認証スキーム
不動産に関わる様々な関係者にとって多様な活用方法が考えられます。ResRealは個別の不動産に対する認証を所有者に対して付与しますので、不動産所有者にとって最も多くの活用方法があります。
たとえば、認証を受けることを通じて、保有する不動産のレジリエンスを可視化することが可能になります。またそれらの不動産のレジリエンス向上のための具体的な対策を見出すことができます。近年ESG投資が不動産投資の潮流となる中、投資資金を呼び込むための訴求材料にもなるでしょう。また環境認証と不動産価値に相関があることが多くの研究から指摘されているように、ResRealが不動産価値に影響を与えることも将来的には考えられます。
その他、金融機関や鑑定機関などの不動産を評価する立場の企業にとっては、不動産価値を評価するための新たな尺度に成り得ます。テナントや利用者はビル選びの基準にすることができるでしょう。そして、ゼネコンやデベロッパー等、不動産の供給者にとっては、自然災害に強いレジリエントな建物開発の指針となることが期待されます。
図表8 ResRealの活用方法
2023年1月27日にResReal公開セミナーを開催します。詳しくは下記URLをご覧ください。
<公開セミナー概要>
https://resreal.jp/2022/12/14/post-2380/
●本邦初、不動産のレジリエンスを可視化して認証を行う制度
●日本の災害の特徴に合致した制度
●土地だけでなく、建物やその運用も評価の対象。海外のツールでも類を見ない
●一般財団法人、複数の民間企業が業界横断的な知識や経験を結集して推進したプロジェクト
●評価はスコアに応じてプラチナ~スタンダードの5段階評価
●ResRealの活用によって不動産のレジリエンスを向上させ、人々の安全・安心な生活を守れる
●不動産に関わる多様な関係者にとって様々な活用方法がある
9. ResReal専用ウェブサイト
https://resreal.jp/
【本件に関するお問合せ先】
不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(※)
一般財団法人日本不動産研究所 業務部 次長 古山英治(こやまえいじ)
info★resreal.jp(左記「★」を「@」に置き換えてください。)
(※)株式会社イー・アール・エス、株式会社建設技術研究所、CSRデザイン環境投資顧問株式会社、一般財団法人日本不動産研究所、野村不動産投資顧問株式会社ほか