2023/01/16 【JREI Think-Tank Eyes】#6 国債市場に再び広がる金融政策修正観測

国債市場に再び広がる金融政策修正観測

(執筆者:研究部 不動産エコノミスト 吉野薫)

2023年1月16日


2023年1月13日、日本の10年国債金利が0.5%を超過したことが話題となりました。日経電子版の報道によると、一時0.545%にまで達したとのことです。日銀は昨年12月の政策修正(前回コラム参照)によって10年国債金利の変動許容幅を従来の±0.25%から±0.5%に拡大したばかりでしたが、早くもその上限が打ち破られた格好です。

とはいえ短期的にみれば、0.5%を超過した水準が維持されることはありません。日銀は同日のうちに臨時のオペレーションの実施を通告し、国債価格の下支え(国債金利の抑制)を図ったところ、同日夕方時点では10年国債金利が0.5%近傍にまで低下しています。そもそも日銀は現在、0.5%の利回りでの指値オペを原則として毎営業日実施することにしています。これは10年国債金利が0.5%を超過しないように無制限に国債を買い支えるという市場調節手法です。日銀が本気で金利の上昇を阻止し続けるのであれば、債券市場参加者が0.5%よりも高い金利水準(安い国債価格)で国債を売却する動機は生じませんから、たとえ一時的に0.5%を超える国債金利水準が形成されたとしても、それが何営業日にも亘って維持されることはありえません。

一時的にせよ国債金利が0.5%を超えたことは、債券市場において日銀の政策修正予想が広がっていることの証です。まさに日銀の本気度が試されているということに他なりません。さらには毎営業日指値オペを実施するという日銀の硬直的な政策それ自体も、政策修正を予想する市場参加者による国債のカラ売りを誘発していると考えられます。何しろ日銀が0.5%の金利水準で確実に国債を買ってくれるのですから、政策の修正によって長期金利が上昇することを確信する投資家は安心して国債の売り持ちポジションを形成することができます。

1月17日、18日には次回の金融政策決定会合が控えています。一部の報道はこの会合で金融政策の点検が行われるとしており、もしそれが事実であれば、その次以降の政策決定会合における政策修正の地ならしとなるでしょう。しかし日銀が前回会合でサプライズ的な手法に打って出たのですから、「その次」などという想定は気長すぎるかもしれません。1月の会合で点検と同時に政策修正を実施する可能性ももはや否定できません。

あくまで仮の想定ではありますが、もしも現在のイールドカーブ・コントロール政策(短期金利を▲0.1%、10年国債金利をゼロ%近傍に誘導する政策)が撤廃されたら、10年国債金利はどの程度までに上昇するのでしょうか。それを占う上では10年を取引年限とする金利スワップ取引(ここでは無担保コールO/N物レートを原資産として、「短期金利受け・長期金利払い」と「短期金利受け・長期金利払い」を交換する契約=OIS)の金利水準を参照することが有益です。10年OISレートは足下で1%を超えており、これは約12年ぶりの高さです(図表)。もしもイールドカーブ・コントロール政策が撤廃されれば、10年国債金利は1%前後の水準に収斂する可能性が高そうです。

先々の金融政策が見通しがたい現下の局面において、不動産市場はどのように心の準備を整えておけばよいでしょうか。次回のコラムでは金利の上昇が不動産市場に影響を及ぼす経路について整理したいと思います。

 

図表1:10年を年限とするOISレート

 

(出所)Bloomberg

(一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野薫)


※当コラムで示される見解は個々の執筆者個人に属するものであり、必ずしも日本不動産研究所の見解を代表するものではございません。