業務部 次長 古山 英治
本稿では、2023年1月末から運用を開始した、不動産に関する新たな認証制度「ResReal(呼称:レジリアル)」について開発の経緯や認証の概要・活用方法について紹介したい。
近年我が国では、水害、地震、津波、高潮、土砂災害など、様々な自然災害が多発する傾向にある。特に水害に注目してみると、令和元年東日本台風をはじめとする大型台風や局地的豪雨により、各地で甚大な被害がもたらされた。自然災害に対するレジリエンス(回復力、復元力)を高め、不動産の被害を最小化し、人々の安全・安心に繋げていくことは、不動産に携わる者にとって重要な責務である。
しかし、我が国には不動産のレジリエンスを可視化する仕組みがなかった。レジリエンスを高めようにも現在の状態を客観的に見る指標がないのである。また、気候変動を巡る社会的な動きとして、TCFD賛同者が増加傾向を辿り、物理的リスクの把握と開示への必要性も高まっている。
リスク評価ツールの活用は海外が先行するものの、土地情報のみで判断し、高潮などの慢性リスクが強調されるなど、我が国の特性に合っていない。というのも、我が国では台風や豪雨などの急性リスクが足元の課題であり、また土地だけでなく、建物の頑強性や冗長性、災害発生時の即応性などの運営面も考慮しないと実物不動産のレジリエンスを適切に評価できないからだ。
そこで2019年に野村不動産投資顧問の呼びかけにより、当研究所や民間企業の全7社で「不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(D-ismプロジェクト)」を発足させ、業界横断的に検討を進めてきた。約3年間を経て、日本で初めて不動産のレジリエンスを定量化、可視化して認証を行う制度を開発し2023年1月末から「水害版」の運用を開始した。今後1 ~ 2年をかけて各自然災害をカバーしていく予定である。
図1 評価メニュー
ResRealでは、個々の不動産毎に各災害に対するレジリエンスを評価する。土地情報に加えて建物や運営面も評価の対象にし、その性能を数値化する。評価方法は設問式・加点方式で構築した。また評価においては、レジリエンスを構成する4要素(①頑強性②冗長性③即応性④代替性)と先進的な取組や地域貢献を考慮する。
評価は100点満点とし、スコアに応じてプラチナ~スタンダードの5段階のグレードを付与する仕組みだ。これによって、現在の性能を定量的に確認できるとともに、より高いスコアやグレードを目指して対策を打つことで、結果的に不動産のレジリエンスが向上していくことが期待される。
表1 認証グレード
図2 認証ラベル
ResRealは、不動産のレジリエンスを定量化・可視化する仕組みであると同時に、認証サービスでもある。
当研究所が認証機関として依頼の受付及び認証の付与を行う。認証グレードの判定に必要となる個別不動産のレジリエンス評価(スコアリング)は、株式会社イー・アール・エスと株式会社建設技術研究所が実施する。
また、認証・評価を行う上記3社に対するガバナンス機能として「アドバイザリー委員会」を組織化した。さらに、今後スコアリングの仕組みを更新する際、「レジリエンス評価改訂部会」から技術的・専門的アドバイスの提供を受ける予定であり、認証制度の透明性と信頼性を確保する認証スキームを構築した。
ResRealは各ステークホルダーが意思決定をする際の判断基準としての活用が可能である。たとえば、不動産所有者は保有不動産のレジリエンス向上策の打ち出しやTCFD提言に沿った情報開示へ役立てることができる。投融資の呼び水としての活用も考えられる。テナントにとってはビル選びの基準に、デベロッパーにとっては自然災害に強い建物開発の基準にすることも可能だ。また、ともすれば日本の災害リスクを過大評価して
しまう海外投資家に対して、「正当な評価」を提供することができるかもしれない。
このようにResRealは、不動産に関わる多様な関係者にとって、様々な視点からの活用が可能である。ResRealによって、不動産レジリエンスへの意識が高まり、建物の被害を減少させ、延いては国民の安全・安心な生活に繋がることを期待する。
(「不動産研究」第65巻第2号 特集「観光と地域活性の新潮流」 業務部 次長 古山英治)