2024/01/11 【不動研だより】「第31回パン・パシフィック・コングレス(PPC)」参加報告

「第31回パン・パシフィック・コングレス(PPC)」参加報告

「不動産研究」第66巻第1号より

シニア不動産エコノミスト 吉野 薫



 2023年9月に開催された国際カンファレンス「パン・パシフィック・コングレス」( 以下、PPC )において、弊所の不動産鑑定士2名がそれぞれパネルディスカッションへの登壇および研究報告を実施した。本稿ではその模様について報告する。

1.第31回PPCの開催概要

 PPCはその正確な名称を「Pan Pacific Congress of Real Estate Appraisers, Valuers and Counselors」(汎太平洋不動産鑑定会議)といい、環太平洋地域における不動産鑑定人や不動産カウンセラーなど専門機関メンバーの情報共有を主な目的としている。1959年にオーストラリア、ニュージーランド、米国を参加国としてシドニーで初会合が開催されて以降、当カンファレンスは原則として2年に1度のペースで開催されており、今年の台湾・新北大会をもって第31回目を数えるに至った。現在では計12の国と地域が参加しており、日本からは公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会と特定非営利活動法人日本不動産カウンセラー協会が参加主体となっている。

図表1 第31回PPC開催概要

図表1

 今回のPPCには、弊所から飯島孝博主席専門役が大量評価に係るパネルディスカッションに参加した。また池亀良枝主任専門役がオペレーショナルアセットのキャッシュフロー分析に関する研究発表を行った。

2. 大量評価に係るパネルディスカッション

 9月7日(木)に開催された全体パネルセッション「Mass Appraisal and Real Estate Tax Base Assessment」(大量評価と不動産税務基準額の査定)において、パネリストの一員として招請された弊所の飯島主席専門役が日本の固定資産税評価の実務に関するプレゼンテーションを行った。その中で飯島主席専門役は日本の公的土地評価や固定資産税・都市計画税の概要について紹介した上で、比準表を用いた路線価の決定の方法について紹介した。また近年の固定資産税評価に係る新しいトピックとして、災害の被害を受けた土地の評価、デジタル化の進展、新型コロナウイルス感染症への対応について論じた。

 その後、司会者、基調講演者および他のパネリストを交えたディスカッションが行われた。そこではAI(人工知能)を大量評価に活用する可能性についての議論が特に熱を帯び、飯島主席専門役を含む各登壇者が各国における検討状況や実務に即した課題認識を披露しあうなど、活発な意見交換がなされた。

図表2 飯島主席専門役による発表の模様

図表2

3. キャッシュフロー分析に関する研究発表

 9月6日(水)に開催された研究発表セッション「Global Real Estate & Valuation」には池亀主任専門役が参加し、「Estimating Payback Period via Cash Flow Projections by Analyzing Annual Report」(有価証券報告書を用いた投資回収期間の分析をキャッシュフローの想定に活用する方法)と題した論文を発表した。

 当論文は情報開示の少ないオペレーショナルアセットの鑑定評価に当たって収益の分析が重要であることに着目し、公表資料を分析することでキャッシュフローや資本的支出についての見通しを立てる方法を提案している。海外におけるオペレーショナルアセット、特にマカオおよびシンガポールにおける統合型リゾート(Integrated Resort、IR)を対象として、複数の運営業者の有価証券報告書に記載された収益(EBITDA)と初期投資額および追加投資額の情報を収集し、そのデータから投資回収年の計測を試みた。その結果として、初期に開業したIRは相対的に投資回収期間が短い、という先行者利益が存在することを見出した。

図表3 池亀主任専門役による発表の模様

図表3

 なお池亀主任専門役が発表した論文の仮訳は公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の「PPCスピーカー論文」のページ 脚注(1) に掲載されている。併せて参照されたい。

4.国際交流

 前回のマレーシア・クアラルンプール大会は2020年に開催される予定であったところ、コロナ禍によって1年延期となり、かつWeb会議システムでの開催であった。したがって各地からの参加者が一同に会するのは2018年のメキシコ・ティファナ大会以来5年ぶりとなった。

 今回のPPCにおいては、弊所からの参加者もCongress BanquetやGala Dinnerなどの機会を捉えて各地からの参加者との交流を行うとともに、弊所が平素からご厚誼にあずかっている有識者等との旧交を温めた。

 今後も弊所はこのような機会を通じて国内外の方々とともに知見と学識を高め合い、もって鑑定評価やコンサルティングをはじめとする様々な業務を通じて社会に寄与できるよう努めて参る所存である。次回のPPCは2025年にシンガポールで開催される予定となっている。そこでも再び多くの方々と有益な情報交換をさせていただけるなら望外の幸いである。

 

  脚注 (1) https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/international/ppc-1/

 

 


「不動産研究」第66巻第1号 特集「多様化するPPP/PFIと地方創生」
シニア不動産エコノミスト 吉野 薫