2024/07/02 【コラム】賃貸オーナーが知るべきサブリースの真実~デメリット学び、納得した判断を~(住宅新報2024年6月18日号より)

住宅新報2024年6月18日号 特集『資産運用ビジネス特集』掲載記事より

賃貸オーナーが知るべきサブリースの真実 ~ デメリット学び、納得した判断を ~

企画部 上席主幹 大竹 良和


 賃貸物件の管理は、オーナー自ら管理する方法のほか、賃貸管理業者に管理を委託する方法があります。親が運用していた賃貸物件を相続したオーナーや、本業を持ちながら副業的に賃貸経営をするオーナーなど、賃貸経営に不慣れであったり時間的制約のあるオーナーは、管理を委託することが多くなりますが、更に、賃貸経営をサブリース業者にいわば一任する方法をとることがあります。本稿では、オーナーが知っておきたいサブリースのメリットとデメリットを解説します。

1. サブリースとは

 サブリースは、2020(令和2)年12月15日施行の賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(通称「サブリース新法」)により、「賃貸住宅の賃貸借契約であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるもの」と定義され、「特定賃貸借契約」と称されました。

 本来、オーナーと業者が締結するのがマスターリース契約で、業者と入居者が締結するのがサブリース契約ですが、一般に、オーナーと業者間の契約もサブリース契約と称されますので、本稿もこれに倣います(図1、図2参照)。

2. サブリースのメリット ~空室リスクを業者に移転~

 賃貸経営するオーナーの不安は様々ですが、その典型は空室リスクや家賃下落リスクでしょう。これらのリスクが顕在化するかどうかは、周辺の賃貸マンション・アパートとの競争関係次第ですが、競合物件の質と量を操ることはできませんから、所有物件をリフォームしたりといった自助努力だけでは不安が解消しません。また、賃貸経営に不慣れであったり時間的制約のあるオーナーにとって、賃貸管理・運営のすべてを自らの手で行うことは困難です。このような不安と困難を抱えるオーナーにとって魅力があるのがサブリースによる借り上げです。

 オーナーとサブリース業者間の契約が続く限り、入居者が退去して部屋が空いてもサブリース業者からの賃料支払いは続きますから、オーナーの立場から見て空室リスクが顕在化することがなく、家賃収入が途絶える心配をする必要がありません。また、入居者募集、賃貸借契約、家賃等集金、契約更新、退去立会及び問い合わせやクレーム対応といった入居者対応から物件の維持管理まで、煩雑な賃貸管理・運営の業務は、すべてサブリース業者に任せることができます。

 一方で、サブリース業者にとっては、部屋が空いている間の損失を担保し、賃貸管理業務のフィーを得る必要がありますから、当然、入居者から収受する賃料に比べて、オーナーに支払う賃料を少なくしなければなりません。これら賃料の差額は、10~20%ほどの場合が多いようです。しかし、サブリースを用いるオーナーとしては、家賃収入が10~20%目減りすることは承知のうえで、目減り分は空室リスク解消対価と手間賃と割り切って、本来の家賃の80~90%の収入が毎月確実に、手間なく得られる立場を選んでいるわけです。

 このように、サブリースは、オーナーからサブリース業者への空室リスクの移転であり、それによって安心を得るオーナーにとっても、事業収益を得るサブリース業者にとっても、ウィン・ウィンの関係となる仕組みです。

3. サブリースのデメリット ~家賃減額リスクは不可避~

 オーナーは、サブリース業者が謳う「家賃保証」の言葉に魅力を感じてサブリースを用いることがありますが、この言葉には注意が必要です。

 まず、サブリースの契約期間と家賃保証の期間は、必ずしも一致しません。参考に、国土交通省の「特定賃貸借標準契約書」様式から、契約期間及び家賃等にかかる部分を示します(図3参照)。このように契約期間にかかわらず、家賃の改定について定める様式になっています。

 例えば、10年といったような比較的長期の契約期間が契約書に定められていると、10年にわたり家賃が保証されるような印象を受けやすいのですが、2年ごとの家賃改定といったかたちで、別途家賃の改定について定められていることが通常です。つまり、借り上げによって空室リスクを回避できる期間と家賃が保証される期間は別で、家賃保証期間の方が短い場合が多いのです。

 更に、借地借家法32条2項は、一定の場合には「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」と定め、「契約の条件にかかわらず」とあるとおり、これは強行規定(当事者がそれと異なる特約をしても、特約が無効になる規定)ですから、例えば世間一般の家賃が下落しているような状況下では、契約上の改定期が到来していなくても、サブリース業者からオーナーに家賃の減額を請求することができます。

 以上のとおり、サブリースは、入居者が退去して部屋が空いていてもサブリース業者からの家賃収入が続くメリットがありますが、家賃を長期保証する仕組みではないことに留意が必要です。

 ところで、サブリース業者からオーナーに家賃減額の提示があったとしても、オーナーとして受け入れないというのはどうでしょうか。この場合は、サブリース契約を解約される可能性があります。長期の契約期間が定められていたとしても、通常、別途、中途解約の定めがあり、サブリース業者はこの定めにしたがって解約できるのです。オーナーとしては、空室リスクの回避というサブリースのメリットを確実に保ち続けたいなら、サブリース業者からの家賃減額の提示に対して、交渉力は強くないのです。

4. サブリースのデメリット ~過剰なリフォーム提示も~

 賃貸経営にあって、入居者が退去した機会に表装(壁紙・床等)を張り替える、故障した設備を修理・交換する、ニーズに合った間取りや設備の機能を取り入れるといったリフォームが、ある程度は必要です。しかし、多くの場合、リフォーム費用に比べて家賃が上がる程度は大きくありませんので、過剰なリフォームは控え、入居付けに必要な範囲内でリフォームを行うのが合理的です。

 一方、サブリース業者は、軽微なものを除きリフォーム費用を負担せず、オーナーに請求します。それにもかかわらず、リフォームによって入居者から収受する家賃が上昇すれば、サブリース業者の利益となる家賃差額(サブリース業者の利益の源泉は、入居者から収受する家賃と、オーナーに支払う家賃との差額)が拡大します。

 また、賃貸市況の変動を考慮外とすれば、家賃は、建物や設備が古くなるにつれて下落します。更に、老朽化は入居希望者の減少を招き、空室リスクが顕在化しやすくなります。入居者から得られる家賃が減り、あるいは空室が長引けば、一定の家賃をオーナーに支払い続けるサブリース業者としては利益が減り、赤字に陥るおそれもあります。

 以上のとおり、サブリース業者にとっては、家賃の上昇を狙い、あるいは家賃を維持して空室を回避するために、できるだけ大規模で高品質なリフォームを行うことが望ましいのです。

 このようにリフォームに対するベクトルは、オーナーとサブリース業者で逆を向きますから、サブリース業者からオーナーが望まないリフォームを提示される可能性があります。そして、リフォームの提示を受ける局面も、家賃減額の提示があった場合と同じで、提示を受け入れなければ、サブリース契約を解約される可能性があります。オーナーとしては、空室リスクの回避というサブリースのメリットを確実に保ち続けたいなら、サブリース業者からのリフォームの提示に対して、交渉力は強くないのです。

5. ウィン・ウィン関係の安定性

 サブリースのメリットは、空室リスクのオーナーからサブリース業者への移転であり、それによって安心を得るオーナーにとっても、事業収益を得るサブリース業者にとっても、ウィン・ウィンの関係となる仕組みと説明しました。

 しかし、多くの賃貸物件が供給されている今日、賃貸経営の知見を持つ業者であっても、空室リスクと家賃下落リスクを回避することは困難ですから、サブリース業者としても長期的にリスクを抱え続けることはできず、最終的には、オーナーに支払う家賃の減額、リフォームの要求、サブリース契約の打ち切りといった形で、リスクをオーナーに戻すしかないのです。これは、サブリース業者が、営利を追求する企業である以上、むしろ当然のことでありましょう。ウィン・ウィン関係は、必ずしも安定的なものではありません。

 サブリースを用いようとするオーナーにとって重要なのは、サブリースのデメリットを理解することです。入居者が支払う家賃に比してサブリース業者から得られる家賃収入が目減りするほか、それ以外にも、家賃の金額は保証されないこと、リフォームが過剰となりやすいことといったサブリースのデメリットを理解したうえで、それでも空室を心配せず任せきりにできるサブリースを選択するなら、それはそれで問題のないことだからです。

6. サブリースのデメリット ~出口戦略で不利に~

 サブリースを用いるオーナーは、実入りが減る分を空室リスク解消対価と手間賃と割り切って、本来の家賃の80~90%の収入が毎月確実に、手間なく得られる立場を選んでいます。しかし、賃貸物件を求める需要者が、皆同様の考えをもっているわけではありません。賃貸経営は、サブリースを用いずとも、自主管理や管理委託により行うことができますし、そのような管理方法をとるオーナーの方が多数派です。

 このような賃貸経営方法の違いから、サブリース物件を売りに出した場合、自主管理や管理委託により経営しようとする需要者は、安価でないかぎり、当該物件を購入しようとしません。なぜなら、自主管理なら入居者が支払う家賃の全額を収受でき、管理委託なら3~5%ほどの委託手数料が差し引かれた家賃を収受できるのに対して、サブリースの場合は、10~20%程度も目減りしてしまうからです。サブリースを用いるオーナーにとっては、この目減り分は毎月確実に手間なく家賃を得る代償として許容できるとしても、自主管理や管理委託をするオーナーにとっては、許容できないからです。

 それでは、サブリースを解約してから売りに出すか、購入した者が解約する前提で売りに出せばよさそうです。しかし、サブリース契約は、サブリース業者が承諾しない限り、オーナー側からは原則として解約できません。サブリース契約は、建物の賃貸借契約ですから、借地借家法が適用されます。このため、賃貸人からの解約や更新拒絶は「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」(借地借家法28条、同法30条により強行規定)のです。

 正当事由を具備すれば解約も可能ですが、正当事由としては、「多額の諸税金の納付、学資家計費の調達等のため、現在賃貸している家屋明渡しを求めて処分する以外に方法がないと認められるとき」(最判昭27.3.18)など、かなりの程度の必要性が認められなければなりません。なお、サブリース業者側からの解約・更新拒絶は、サブリース業者は賃借人の地位に立ちますので、正当事由を必要としません。

 このように、サブリースの解約は困難であることから、自主管理や管理委託により経営しようとする需要者から避けられ、需要が限られることなります。需要が少なくなれば、相場より安くしか売却できない場合が多くなります。

 また、賃貸物件は、基本的に利回りで適正価格を判断しますから、サブリース家賃収入を基礎として利回りで割り戻した適正価格は、サブリース家賃が低くなっている分、価格も低くなるのです。

7. 新法が説明責任を担保

 サブリース新法が2020年12月15日に施行され、①サブリース業者・勧誘者による特定賃貸借契約(マスターリース契約)勧誘時に、家賃の減額リスクなど相手方の判断に影響を及ぼす事項について故意に事実を告げず、又は不実を告げる行為が禁止されました。

 また、②マスターリース契約の条件について広告するときは、家賃支払、契約変更に関する事項等について、著しく事実に相違する表示、実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させるような表示が禁止され、③マスターリース契約の締結前に、家賃、契約期間等を記載した書面を交付して説明(重要事項説明)することが義務づけられました。違反者に対しては、業務停止命令や罰金等が課せられます。

 従来、業者の説明不足や誇大広告により、サブリースを実際のものより有利なものと誤解したまま契約に及んだオーナーが、こんなはずではなかったと後悔することもあったわけですが、サブリース新法により、業者の説明責任が法によって担保されましたので、オーナーとしては、業者が提示する資料を隅々まで読み込み、業者の説明をよく聞き、家賃が減額される場合があること、業者側から解約される場合があること、オーナー側からの解約は困難であること等について十分理解したうえで、それでも賃貸経営の方法としてサブリースを選択するか、判断することが重要です。

以上

 

<著者プロフィール>

氏名:大竹 良和(おおたけ よしかず)
役職:一般財団法人日本不動産研究所 企画部 上席主幹
経歴:1997年に日本不動産研究所入所後、システム評価部、公共部を経て、現在は企画部において法務を担当。不動産鑑定士、弁護士。