本社事業部 参事 建物専門チーム 立石 正則
本稿では、2023年10月から建物と正面から向き合う組織としてチームアップした「建物専門チーム」の、1. 創設の背景と理念、2. チームの業務内容、3. チームのパワーツール「BIM」について述べ、最後に4. 今後の展望を紹介したい。
「建築士に期待される役割は、新築主流の建築活動に対する専門性の発揮から、空き家を中心としたストック建築をいかに活用するかといった利用の時代における建築の専門職能の領域へと転換せざるを得なくなっていく」 |
これは2019年の建築士定期講習のテキストの冒頭文章である。私は定期講習のテキストに敢えてこの文章を記載した発行主体の覚悟に衝撃を受けた。
わが国のストック型社会への変化を受けて、建築士自身がそのポジションをチェンジする明確な意思表示と受け止めたからだ。
そして、不動産鑑定士が担うポジションも、社会の一員として変化に対応し、ストック整備の素地である土地の最有効使用を把握する役割から既存ストックそれ自体の最有効使用を把握する役割に変化することが要請されており、不動産鑑定士としてその要請に応え、社会に価値を提供し続ける義務があるとの気づきを得た。
しかし、既存ストック(建物及びその敷地)それ自体の最有効使用を把握するのは容易ではない。既存ストックの状況を観察し、膨大な建物情報を整理し、地域分析・個別分析を通じて、増改築・用途変更に係る法的・技術的・経済的な面から実現可能性を検討するには、不動産鑑定の領域を超え建築の領域の情報・知識・技術が必要であるためである。
一方、この領域を超えた「不動産鑑定×建築」の情報・知識・技術は、アカウンタビリティの時代にあって、合意形成や意思決定に客観性(第三者性)が求められる広範なシーンに対応可能である。
「建物の専門家として的確な第三者意見を提供する行為を通じて、合意形成や意思決定の背中を押す」 |
このような理念の下、建物に強みを持つ不動産鑑定士と意匠・法律・構造・コストに強みを持つ建築士がチームとなり、価値提供を目的として誕生したのが「建物専門チーム」だ。
「建物専門チーム」の業務は、①当研究所の全国の支社・支所の支援業務と、②お客様が保有する建物の運営課題に関しての合意形成・意思決定を促すコンサルティング業務とに分けられる。
建物及びその敷地の鑑定評価における最有効使用の判定については、地域の人口減少や建築費高騰、脱炭素社会への指向等も相俟って、継続利用するための方法(増改築・リノベーション・用途変更等)を検討するシーンが地方を中心に増えている。
この検討には上述のように不動産鑑定の領域を超えた建築の領域の情報・知識・技術が必要である。またアカウンタビリティの時代にあって、成果品としてのレポートに求められる詳細度も高くなっている。
そのため、人的資源に限りのある全国の支社・支所の支援等を通じて価値提供を行うとともに、当研究所の基幹業務である鑑定評価業務の深化を図ることが目的である。
従来、お客様が保有する建物の運営課題に関して直接支援する価値提供は、当研究所として正面から取り組んでいなかった領域である。
そのため、運営課題は広範に亘るが、「建物専門チーム」に寄せられる課題(要望)を列挙すると、例えば図表1の課題となる。
従来、このような課題の解決主体は、その建物に古くから携わる設計会社・施工会社・維持管理会社・不動産仲介会社等の事業者が担ってきた。
しかしながら、こうした事業者にはその建物の関係者としての本業がそれぞれあり、中立性や客観性が重視される昨今は、問題となるシーンが増えている。
そこで、中立的な第三者である私たちが、技術的な視点に加え経済価値的視点も加えたコンサルティングを行い、お客様の合意形成(方針付)と意思決定の支援を行っている。
不動産鑑定士と建築士が協業するだけであれば既に多くの主体が行っており、人材を確保すれば誰でもいつでも上述の業務に参入できる。
しかし上記のようなコンサルティング業務は、それぞれの専門領域がオーバーラップし、一気通貫していることが重要だが多くの場合、専門領域が孤立し一気通貫性を有しておらず能力を発揮できていないケースが多い。
当研究所では、BIM(Building Information Modeling)について2019年から取り組みをスタートし5年を迎える。建物情報を可視化するBIMは、不動産鑑定士と建築士、お客様と建物専門チームをそれぞれ繋ぐパワーツールとして使用しており、これが専門領域のオーバーラップと一気通貫した業務の推進に貢献している。BIMについての理解の成熟がチームアップを企画する契機となったところが大きい。
チームアップ以来、問い合わせや業務が相次ぎ、最初の外部発信の原稿が、この「不動研だより」になってしまったのは嬉しい誤算である。
建物の良質な管理・活用を推進するニーズは、相当なものであり、その領域は極めて広範であると実感している。
今後はBIMだけでなく各主体が既に構築しているデータ基盤と連携し、広範なニーズにスピード感のある対応が可能な体制づくりに取り組んでいきたい。
「不動産研究」第66巻第3号 不動研だより「建物の良質な管理・活用を支援する「建物専門チーム」」
本社事業部 参事 建物専門チーム 立石 正則