2024/08/16 【コラム】オルタナティブデータの可能性

みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。

近年、インターネット等を活用したデジタル化の進展により、スーパーマーケットの商品別購買データや携帯電話基地局を活用した人の移動に関する情報、SNSや日々のニュースなどインターネット上の膨大なデータが入手できるようになりました。これらのデータ群を「オルタナティブデータ」といい、従来の公的統計情報等では捉えきれない様々な社会経済の動きを分析することができるようになってきています。

今回は、このようなオルタナティブデータが不動産鑑定評価に与える効果について考えてみたいと思います。

オルタナティブデータの活用

一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会とSOMPOインスティチュート・プラスによって発行された「オルタナティブデータ FACTBOOK(2023年11月)」によれば、オルタナティブデータの利用目的では、「投資判断・景気予測」が最も多い92%(グラフ①参照)、オルタナティブデータの販売先は「資産運用業」が最も多い結果となっています(グラフ②参照)。オルタナティブデータは、従来の統計データだけでは実現できないメリットがあると感じていることがうかがえます。

【グラフ① オルタナティブデータをどのように活用していますか?(複数回答可、最大3つまで】

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【グラフ② オルタナティブデータの販売先は(複数選択可)?】

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【出典:グラフ①②ともオルタナティブデータ FACTBOOK(2023年11月)より抜粋】

不動産の価格はどのように決まるか

不動産の価格は「効用」「相対的希少性」「有効需要」の相関結合によって形成されるとされ、この三者に影響を与える要因を価格形成要因と呼びます。そのため、具体的にはこれらの価格形成要因を分析することで不動産の鑑定評価額を決定することになります。

これら三者は不動産(土地や建物等)そのものが本来的に有しているものではなく、その不動産に対して人間側が抱く要素です。言い変えれば、「不動産をどのように利活用するか」という人々の意識が、その不動産に価値を与え、価格として反映されるのです。不動産鑑定士による鑑定評価とは、対象不動産を通じてその不動産に人々がどのような価値を見出すかを判断しているのです。

価格形成要因の分析理念とオルタナティブデータ

不動産鑑定評価基準の基本骨格として定められた当時(昭和44年)から、価格形成要因に関する基本的な考え方や内容は変わっていません。当初の不動産鑑定評価基準においても「不動産の鑑定評価を行うにあたっては、価格形成要因を明確に把握し、かつ、その推移および動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析し、前記三者に及ぼすその影響を判定することが必要」と説明しています。また、不動産鑑定評価基準に示されている価格形成要因は、一つの例示に過ぎないということについても基準制定時に言及されています。

不動産鑑定評価では、これらの価格形成要因をいかに分析し、解明するかということが長年にわたって研究されてきたといえるでしょう。

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【出典:国立国会図書館デジタルコレクションより抜粋】

オルタナティブデータの活用可能性

例えば、購買データ(POSデータ)を例に考えてみます。店舗ごとのアルコール飲料の売上額のほか、種類や単価を比較することで、地域住民の嗜好品(必需品ではないので、暮らしの余裕度にも繋がります)に対するお金のかけ方の違いがわかるかもしれません。あるいはホームセンターならば、ガーデニング用品が多く売れる地域は、庭の手入れに関心が高い住民が多いことがわかりますし、ペット用品が売れていれば、ペットを飼育している世帯が多いということもわかります。

これらのデータを価格形成要因と組み合わせることで、街並みや建物など物理的に観察できる違いのみならず、地域住民のライフスタイルといった見えない違いを把握し、分析が可能になると考えます。

不動産の価値は人々の活動の結果である

不動産の価格は前述のとおり、人々の様々な活動の結果として形成されるものです。

不動産の有用性を人々がどのように見出しているか、つまり「不動産のあり方」を解明するのが不動産の鑑定評価の本質だとすれば、これらのオルタナティブデータの活用は、上記のとおり、物的な不動産の状況にとどまらず、そこに暮らす人々のライフスタイルや価値観の違いを読み取ることで、これまでの価格形成要因分析の幅を広げ、不動産鑑定評価基準制定当時からの理念をより精緻に実現できる可能性を有していると考えます。

(幸田 仁)