住宅新報2024年9月17日号 特集『不動産流通市場の回顧と展望』掲載記事より
不動産流通市場の回顧と展望 ~ 2024年上半期における中古住宅流通市場の特徴を中心に ~
研究部 主席研究員 曹 雲珍
2024年上半期の首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)中古住宅流通市場は全体的に好調である。中古マンション市場において、成約戸数は19,226戸であり、前年同期より増加した。平均成約価格も依然として上昇傾向が続いている。中古戸建住宅においても、成約戸数は7,099戸であり、2年ぶりに7,000戸台に戻ってきた。平均成約価格も連続上昇し、11年以降の最高値となった。
ここでは2024年上半期の市場を振り返るとともに、中古住宅流通市場の特徴についても説明しながら、2024年下半期と2025年を展望する。
2024年上半期の首都圏中古マンションの成約戸数は19,226戸であり、前年同期(18,065戸)より増加し、四半期のみで見ても高い水準であった(図1)。なお、地域別の成約戸数は、東京都は10,512戸(前年同期比9.0%増加)、神奈川県は4,322戸(同0.3%減少)、千葉県は2,248戸(同4.9%増加)、埼玉県は2,144戸(同10.3%増加)であり、東京都、千葉県と埼玉県は前年同期より増加したが、神奈川県はやや減少した。
(資料:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例マーケットウオッチ」を基に作成)
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(資料:一般財団法人日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」)
2024年8月27日に公表した6月時点の「不動研住宅価格指数」(図2)によると、首都圏は123.52(2000年1月=100)ポイントで、今年3月から120ポイント台を維持している。地域別では、東京都は141.66ポイントで、2015年12月からは、ミニバブル期の最高値である2007年10月の94.90ポイントを上回り、それ以降も概ね上昇傾向が続いている。さらに今年に入ってからは、最高値を連続更新しながら上昇した。また、神奈川県は107.17ポイント、千葉県は89.15ポイント、埼玉県では91.81ポイントとなった。首都圏は、2013年以降は概ね上昇傾向が続いている。2024年6月時点の指数は2013年1月と比較し、首都圏は77.07、東京都は81.65、神奈川県は76.11、千葉県は65.24、埼玉県は26.16ポイント増加しており、東京都の増加ポイントが最も高かった。
価格が高騰している中都内の需要は依然として堅調
公益財団法人東日本不動産流通機構の公表資料によると、2024年に入ってから東京都の平均成約価格が6,000万円台前半と高値で推移しているにもかかわらず、2024年上半期の成約件数は10,512戸で、半期のみを見ると2015年以降2番目に高い水準となった(表1)。因みに、成約件数が最も高かったのは2021年上半期(10,861戸)であった。また、都心3区(千代田区、中央区、港区)の平均成約価格が2024年3月に1億円を越えてからも、成約件数は前年同期比で増加し続けている。2024年上半期の成約件数は1,345戸で、2023年下半期(1,363戸)に次ぐ2番目に高い水準となった。
(資料:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例マーケットウオッチ」を基に作成)
外国人の影響は限定的
これについて市場関係者にヒアリングしたところ、外国人が投資目的で高価格帯物件を購入する件数が確実に増えていることが分かった。図3からも分かるように、東京の高級住宅は香港やロンドンなどより価格が安い。特に円安傾向が続いており、割安感がさらに高まってきた。それに加えて、東京の賃貸マンション市場も好調であり、外国人が購入した物件を賃貸運営業者に委託し、円高になってから転売して賃料収入と為替差から利益を得る目的で投資する事例が増えているようである。このように投資目的で購入する外国人が増えているが、全体的な平均成約価格上昇への影響は限定的であることは明らかである。なぜなら、たとえ都心3区の全ての物件を外国人が投資目的で購入したとしても、表1で示したように都心3区が東京都に占める割合は1割程度だからである。
(資料:一般財団法人日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」を基に作成)
買取再販の増加による価格上昇
今年2月20日の本紙「流通特集」でも述べたように、近年では買取再販が増加している。株式会社矢野経済研究所「中古住宅買取再販市場に関する調査を実施(2023)」によると、2023年の中古住宅買取再販市場規模は前年(41,000戸)より2.4%増加し、42,000戸と予測している。なお、そのうち約7割が中古マンションである。今後も中古住宅買取再販市場は拡大基調で推移する見込みで、2030年は50,000戸になると予測している。
市場関係者によると、買取再販業者は利益最大化の視点から、築年26~30年の中古マンションを購入する割合が高いと言われている。公益財団法人東日本不動産流通機構の公表資料を見ても、2024年第1四半期における築年26~30年の中古マンションの成約件数は、首都圏では前年同期比で2割も増加した。そのうち、東京都は前年同期比で約3割も増加した。また、2024年第2四半期における築年26~30年の中古マンションの成約件数は、首都圏では前年同期比で1.5割増加した。そのうち、東京都は前年同期比で4割強増加した。2024年上半期の住宅買取成約件数が増加している中、築年26~30年の中古マンションの成約件数も前年同期比で増加していることから、首都圏、特に都内における買取再販の増加によって平均成約価格を押し上げた部分があると推察できる。
価格高騰による賃貸需要の増加
不動産経済研究所の発表によると、2024年上半期に東京23区の新築分譲マンションの発売戸数は3,319戸で、32.3%と前年同期より減少した。一方、平均価格は10,855万円/戸、172.6万円/㎡で、それぞれ16.3%、10.3%と前年同期より下落したものの、依然として高い水準である。また、中古マンション価格も上昇傾向が続いており、マンションを購入できない需要者層がさらに増加していると考えられる。
弊所が2024年9月に公表した「住宅マーケットインデックス」に基づいて作成した指数(図4)によると、2024年上半期は新築及び中古の大型(専有面積80㎡以上)、標準タイプ(40㎡以上80㎡未満)と小型タイプ(40㎡未満)はともに上昇し、調査開始以来の最高値となった。なお、「80㎡以上」の賃料上昇幅が最も大きい。「住宅マーケットインデックス」は東京23区のみであるが、賃貸マンション市場の動向をある程度示しているため、賃貸マンションの需要がさらに高くなったことが読み取れる。
もちろん、都内人口が増加していることも賃貸住宅需要の増加要因になっているが、住宅価格の高騰により、賃貸住宅市場へ流れ込んだ購入検討者が増えていることも一つの要因になっていると推察される。
(資料:一般財団法人日本不動産研究所「住宅マーケットインデックス」)
(資料:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例マーケットウオッチ」を基に作成)
2024年上半期の首都圏中古戸建住宅の成約戸数は7,099戸で、2年ぶりに7,000戸台に戻ってきた(図5)。成約戸数は15年上半期以降6,000戸を上回って推移している中、2020年上半期には新型コロナウイルス感染症の影響によって一時期的に低下したが、直後の2020年下半期には7,375戸にまで回復した。さらに、2021年上半期には8,293戸となり、過去最高水準となったが、2021年下半期(7,143戸)には再び減少に転じ、2022年上半期(6,992戸)、2022下半期(6,454戸)、2023年上半期(6,509戸)、2023年下半期(6,362戸)も概ね減少傾向が続いていた。一方、2024年上半期の平均成約価格は3,958万円で、四年半連続上昇し、2011年以降の最高水準となった。
地域別で見ると、東京都は成約戸数が2,388戸で、平均成約価格が5,620万円で、首都圏と同様に2011年以降の最高水準となった。神奈川県は成約戸数が1,747戸、平均成約価格が4,078万円、千葉県は成約戸数が1,497戸、平均成約価格が2,548万円、埼玉県は成約戸数が1,467戸、平均成約価格が2,560万円と、全ての地域の成約戸数は前年同期より増加した。そのうち、東京都(348戸)の増加量が最も多かった。しかし、平均成約価格は東京都と千葉県は前年同期より上昇したが、神奈川県と埼玉県はやや下落した。
割安感で需要が高まる
新型コロナウイルス感染症の影響によって生活スタイルが変化し、住宅ニーズも多様化しており、中古戸建住宅の一時期な需要は落ち着いている中、首都圏における2024年上半期の成約戸数が前期より大幅に増加した要因としては、中古戸建住宅の需要が高まってきたことが挙げられる。
消費者が安心して中古住宅を購入するように、大手仲介業者をはじめとした「住宅品質への保証サービス」が充実してきている。また、坪単価いくらと値付する「定額制リノベ」や、リノベーション中古戸建住宅の販売などが一般的になり、「中古物件購入+リノベ」というのも有力な選択肢のひとつになりつつある。このように中古住宅流通やリノベーションの活性化に向けた事業環境の整備が着実に進んでいるため、近年では戸建住宅の購入者は新築と中古の両方から探す事例が増えてきており、特に希望する立地が限定されている場合は新築より中古戸建を見つけやすい傾向にある。また、建築費と人件費などの高騰によって中古戸建の割安感がさらに高まってきていると考えられる。
「住宅ローン利用者の実態調査(2023年4月)」では、住宅ローンの金利タイプは変動金利が約7割、固定金利が約2割、全期間固定金利が約1割で2020年から推移している。住宅の種類で見ると、中古マンションは8割以上が変動金利を利用している。従って、固定金利より変動金利の変化が住宅市場への影響が大きいことが分かる。
2024年7月末の日銀金融政策決定会合で、政策金利(短期金利)を0.25%程度に引き上げる追加の利上げが決まったことを受け、大手銀行や地銀は相次いで短プライムレート9月から引き上げることを発表した。なお、変動金利は銀行が個別に設定する短プライムレートと連動するため、9月以降に変動金利を上げる銀行が多い。ただし、今回の引上げ幅は小さいこともあり、住宅流通市場に与える影響はあまり大きくなかったと判断している。
2024年上半期の首都圏中古住宅市場を見ると、中古マンションの平均成約価格は上昇傾向が続いている中、成約戸数は前年同期より増加した。特に都心3区(千代田区、中央区、港区)では、2024年3月から平均成約価格が1億円に入ってからも成約件数は前年同期比で増加し続けている。中古戸建住宅も同様に、平均成約価格が連続上昇し、2011年以降の最高水準となったにもかかわらず、成約戸数は2年ぶりに7,000戸台に戻ってきた。「住宅品質への保証サービス」が充実していることやリノベーションの活性化に向けた事業環境の整備が着実に進んでいる中、建築費や人件費などの高騰によって中古戸建の割安感がさらに高まってきていることが読み取れる。
2024年下半期の新築マンション供給量は、不動産経済研究所の発表によると19,000戸(前年同期比16.1%増)、年間供給は訳28,000戸(前年同期比4.2%増)の見込みである。利便性が高いマンション用地が値上がりしている中、世界的なインフレや円安による資材高、職人不足による人件費の増加などで建築費も高騰しているため、新築分譲マンション価格はしばらく高止まりの状況が続く可能性が高い。中古マンションの価格は新築マンションとの連動性が高まっていることを踏まえると、2024年下半期は局地的に価格調整が増える可能性があるものの、全体的には依然として現状の高い価格水準を維持し、概ね横ばいで推移すると推察される。
一方、中古戸建市場では、前述したように中古戸建の取引環境が着実に整備されつつある中、建築費や人件費などの高騰によって中古戸建の割安感がさらに高まってきており、今後も中古戸建の需要は堅調に推移すると予測される。
住宅ローンの金利については、日本銀行が当面はさらなる金利引き上げを行わないと発表しているため、しばらく変動金利は低位に推移すると予想されている。従って中古住宅流通市場は、価格の高止まりによって成約件数はやや減少しながらも、依然として堅調に推移すると予測する。
<著者プロフィール> 氏名:曹 雲珍(そう うんちん) |