みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。
近年、日本国内では人口減少が続いています。多くの都市では少子高齢化が進行しており、政府も少子化対策として「こども・子育て政策」による支援策を打ち出しました。また、人口移動が活発な大都市圏以外では、放置された空き家も今後さらに増加することが予測されています。人口減少及び空き家の増加は地域の活気を減退させ、空洞化や住民相互の地縁的繋がりにも影響すると言えます。
今回は、不動産鑑定評価の視点も踏まえつつ、地域とコミュニティについて考えてみたいと思います。
個々の不動産は、ある特定の用途(住宅や事務所など)に利用されながらまとまりを持って地域を構成します。このような地域を用途的地域と言います。
不動産鑑定評価では、この用途的地域をまとまりとして調査分析を行います。特に鑑定評価の対象となっている不動産が含まれる用途的地域を「近隣地域」と呼び、この近隣地域がどのような状況にあるかを分析することがとても重要な作業となります。
不動産研究所初代理事長の櫛田光男著「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」では、対象不動産を含む近隣地域の「近隣」という言葉の意味を、附近の状況、近傍の有様という見方には、なにか足りない不十分なものを感じると前置きし、「場」という言葉を関連付け特別な思いを以下のように述べています。
「対象である不動産中心主義とでも申しましょうか、眼がそれに専ら注がれて、その不動産の存在と働きの土台となっている場というものの反省というものが足りないのではないかと危惧されるのであります。そこで、基準ではこの場の一つである近隣というものをとり上げた次第であります。(中略)人間はこのような地域を機縁として一つの社会集団を作ります。これを通常地域社会と申しておりますが、国家そのものも一つの地域社会であります。そしてこの地域社会の典型的なものとして、農村と都市とをあげることが出来ましょう。」
櫛田は、近隣地域という言葉は、単なる物的な不動産の集まりというものではなく、地縁的社会集団の場という意味を込めたのではないでしょうか。これらを図示すれば地域の構成要素は以下のようなイメージとなります。
このように地域を構成するものには、2つの視点が挙げられます。一つは土地、建物等の物的な構造物です。そしてもう一つは、そこで暮らし、活動している人々と、そのコミュニティです。
つまり、地域には土地や建物などの物質的なものと、その地域で暮らし、活動する人々のコミュニティがあると言えます。この2つがしっかりと機能することで良好な地域が維持されると言えるでしょう。
地域は、コミュニティによって支えられてきました。また、コミュニティは、地縁的繋がりを基盤とした「場」を形成し、地域独自の文化や慣習などが「行動様式」として共有され、地域への愛着や安定した地域運営が維持されてきたと言えます。
暮らしやすい地域を持続させるためには、良好なコミュニティを形成していることが重要です。単に人口が多いとか、子どもや若者が多いということだけでは地域の価値は測れないことも見逃してはならないと考えます。
一方で、昨今のインターネット(ICT)の発達により、コミュニティは必ずしも地縁的な繋がりを前提とせずに形成されることも増えてきました。次回は、このようなコミュニティ形成の変化がこれからの地域形成にどのような影響を与えるかについて考えてみたいと思います。
(幸田 仁)