みなさんこんにちは。日本不動産研究所の幸田仁です。
前回は、地域とコミュニティの関係について、不動産鑑定評価の「近隣地域」というキーワードから説明しました。
今回は「その2」ということで、第四次産業革命といわれるICT技術が徐々に浸透したことで、これからの地域とコミュニティとの関係性がどのようになるか、その可能性について考えてみたいと思います。
近年、第四次産業革命と言われるICT技術の急速な発達と、インターネット環境の充実やデジタルデバイスの高性能化によりSNS、メタバース、ブロックチェーン、生成AI等は私達にとっても身近なデジタルインフラになりました。
現在の若者(20代)は、いわゆる「デジタルネイティブ世代」と言われ、物心ついた頃からパソコンやインターネット環境が整った状態で育ちました。最近は3DCG技術やXR(クロスリアリティ)を活用したゲーム、サービス等の「イマーシブメディア」も登場しています。
また、メタバースを活用したオフィス(Meta Workroomsなど)も開発されつつあり、今後は自宅にいながらオフィスにいるような感覚(イマーシブ環境)で働くことも可能になるとと考えます。
このようなデジタル社会の到来によって、日常のコミュニケーションは、現実に暮らしている地域に根ざしたリアルな場(フィジカル空間)に加え、インターネットを通じたコミュニティを形成する場(サイバー空間)が登場したといえるでしょう。
平成16年(2004年)、新潟県中越地方を最大震度7の地震が襲いました。新潟県中越地震です。この地震で新潟県内陸部の市町村は大きな被害を受けました。その一つに山古志(やまこし)村(現在は長岡市の一部)があります。
この山古志村一帯は「錦鯉」発祥の地域としても知られていましたが、地震の被害によって村民は大きく減少しました。この山古志村を救うため、ブロックチェーン技術を活用したNishikigoi NFTを発行し、NFT保有者は「デジタル住民」となって、山古志村を様々な形で応援する人達を募る仕組みをつくったのです。
朝日新聞の報道(令和6年(2024年)10月23日)によれば、現在の旧山古志村の住民は約720人、それに対してデジタル住民は1750人とされています。過疎化と高齢化が進む山古志村の伝統行事やイベントには、デジタル住民も参加するようになったとのことです。
山古志村の事例は最新のデジタル技術を活用することで、2つの場である「フィジカル空間」と「サイバー空間」が結びついた成功例と言えるでしょう。
地縁的コミュニティは、その地域で暮らしてきた人達の行動様式となって定着し、価値観を共有しながら地域の伝統文化として受け継がれてきました。現在、多くの地域では人口減少や高齢化により、これらの貴重な伝統文化を引き継ぐことが困難になりつつあります。しかし、デジタル社会の到来によって誕生した新たな場(サイバー空間)は、住む場所に縛られることなく、地域の歴史や文化を知り、守り、支援したい人達が集まることが可能なコミュニティが生まれ、地域に住む人達との交流も可能となりました。
地域に根ざす伝統文化や貴重な観光資源に価値を見出し、地縁的コミュニティと共に形成される新たなコミュニティの登場は、これからの時代に向けた「地域とコミュニティ」の新しいあり方として広がることを期待しています。
(幸田 仁)