都市開発部 部長 阿部 進悦
本稿では、令和6年10月1日に発足した都市開発部のまちづくりへの取組みについて近年の開発動向と併せて紹介したい。旧コンサルタント部から本社事業部都市開発推進室に組織改編された平成26年からの約10年間、再開発事業やマンション建替え事業、土地区画整理事業などの都市開発を専門として活動してきたが、近年の高度化・複雑化する再開発の問題や増加するマンション建替えに対応するため、都市開発部という専門部署を設立した。
都市再開発法は都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ることを目的に昭和44年6月14日に施行された法律で施行後50年以上が経過しており、都市再開発法に則った市街地再開発事業は全国で1,000地区以上の実績がある。令和4年度においては188地区で事業が実施されている。件数は平成6年頃をピークに平成23年頃まで減少していたが、ここ数年は増加している。
等価交換の考え方をベースとした「権利変換計画」により従前資産を従後資産の床に法的に置き換えるという仕組みをもち、行政手続きから権利の消滅・設定まで統合的に1つの法体系で整備されている世界でも類を見ない法律である。
都市開発法の第1条には「市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする」と当法律の目的が記載されており、法律制定当時の高度成長、人口増加を背景とした都市の乱開発を防ぎ、計画的な市街地整備の役割をもった法律であることがうかがえる。
当法律が制定された50年前は高度成長期であり、インフラの整備やビルの建築が盛んに行われた。奇しくも昭和39年の東京オリンピックの時期であり、首都高や新幹線などのインフラが急ピッチで整備された時期である。このオリンピックから50年以上が経過し、建物やインフラの老朽化が進行し、更新時期を迎えている。これが再開発が盛んな理由の1つ目である。また更新はもっと計画的に行われるはずであったが、リーマン・ショックや東日本大震災という未曾有の経済的、自然的災害を経験して、経済が停滞していた時期が長く続き、更新が思うように進まなかったことも再開発が集中している理由の1つであると考える。さらに安倍政権によるいわゆるアベノミクス3本の矢の1つに「民間投資を促す成長戦略」が掲げられており、大胆な金融緩和と相まって景気が継続的に上昇局面にあったことも再開発事業への民間資金の投入が促進される要因となった。
令和2年に発表された国土交通省の「市街地整備2.0」ではこれまでの市街地整備の進め方は行政が中心となった公共空間の確保・宅地の整形化・建物の不燃共同化を大規模に試行した開発であったと総括しており、今後求められる市街地整備のあり方として「公民連携」で「ビジョンを共有」し、「多様な手法・取組」を組み合わせて、「エリア価値と持続可能性を高める更新」を指向することが重要になっているとまとめている。ここ数年の再開発のトレンドを挙げると以下のとおりである。
令和6年8月に東京都がまとめた「未来の東京」の実現に向けた重点政策方針の中でも述べられているとおり、日本の国際競争力の低下が危惧されている。都市の国際競争力を維持するために必要な議論は必ずしも都市課題だけでは収まらず、働き方改革や子育て、教育などライフスタイルに関わる問題も多くあるが、都市再生に直接に関わる論点としては道路や鉄道ネットワークの再整備、既存ストックの活用、ウォーカブルな空間の創出、自然環境と都市機能の調和といった観点でのまちづくりが重要となってくる。
図1ー2 既存従前の様子 |
図1-3 既存棟竣工後(イメージ) |
図表出典 ○図1 「長岡市大手町通坂之上町地区第一種市街地再開発事業 事業概要」 UR都市機構HP
https://www.ur-net.go.jp/produce/case/nagaoka/outline/index.html?msockid=116288f87b916dca08be9cb27aeb6ccf
神戸市HP「都心三宮の再整備について」図2ー1 ウォーカブルなまちづくりの事例
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図2-2 ウォーカブルなまちづくりの事例
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図表出典 ○図2 神戸市HP「三宮クロススクエア」
https://www.city.kobe.lg.jp/a55197/shise/kekaku/jutakutoshikyoku/kobetoshin/sannomiyacs_20200225.html
また、細街路を再編して大街区化し、大規模な高機能オフィスの立地を可能にする「大街区化ガイドライン」(平成23年3月)も「日本の持続的成長に向けて、東京をはじめとする大都市の国際競争力強化は喫緊の課題であり、都市再生緊急整備地域等において多様な機能が備わった都市拠点を形成するに当たり、官民が連携した取組みにより、大街区化を進める意義は高い」としている。
老朽化したインフラを再整備するにはこれまでのように行政だけで経済的負担をするのが難しくなっており、再開発事業の中で首都高速道路を地下化したり、地下鉄駅やバスターミナルを整備したりといったインフラ整備も行う計画が多くなっている。
都市再生特別地区(虎ノ門一・二丁目地区)
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都心再生特別地区(八重洲一丁目北地区)
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図表出典 ○図3 「資料14 都市再生特別地区(虎ノ門一・二丁目地区)都市計画(素案)の概要」
内閣府国家戦略特区 地方創生推進事務局HP「第12回 東京都都市再生分科会配付資料」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/tokyoken/tokyotoshisaisei/dai12/shiryou.html
図表出典 ○図4 「資料1 都市再生特別地区(八重洲一丁目北地区)都市計画(素案)の概要」
内閣府国家戦略特区 地方創生推進事務局HP「第15回 東京都都市再生分科会配付資料」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/tokyoken/tokyotoshisaisei/dai15/shiryou.htm
国際競争力の強化にも関わる問題であるが、近年の大雨や地震といった災害による被害は国民の生活の安全性を奪うものであり、災害に強いまちづくりは国際競争力強化に不可欠である。国土交通省の定める「国際競争拠点都市整備事業(国際競争業務継続拠点整備事業)」において「大都市の業務中枢拠点において、世界水準のビジネス機能、居住機能を集積し、国際的な投資と人材を呼び込むためには、我が国、大都市の災害に対する脆弱性を克服していくことが必要」とし「災害に対する対応力の強化として災害時の業務継続に必要なエネルギーの安定供給が確保される業務継続地区(BCD:Business Continuity District) の構築が重要」としている。
このように現在では東京都心や中核都市を中心に多くの再開発事業が進捗しているが、当研究所が再開発事業にどのように関わるかについて紹介したい。
都市再開発法第80条には従前資産の価額について事業認可の公告日から「30日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」とある。この場合の「相当の価額」は鑑定評価額とは記載されていないが、補償基準でいうところの「正常な取引価格」であり、鑑定評価における「正常価格」と同義であると考えている。現実的には再開発事業においてはほぼすべての事業(第80条を適用除外している全員同意型の事業も含めて)で従前土地価額については鑑定評価を導入している。施設建築物(従後資産)の価額については原価を中心に価額が決定されるが、床ごと原価配分については不動産鑑定士が査定した効用比等に基づくことが一般的であり、都市再開発法施行令第28条では権利床価額は見込額(=時価)以下で決定すべきことが規定されており、ここでも不動産鑑定士の価額が活用されている。
等価交換を原則とする市街地再開発事業においては従前従後資産の価額が各権利者の取得する新資産に直に影響するため、「価額」の判定が最大の関心事となる。さらに近年多くみられるカンファレンスや地域貢献施設などの用途床は市場価値がわかりにくいため、鑑定評価の活用が必要になる。前述の地下鉄施設や高速道路、バスターミナルなどのインフラを再開発ビルに組み込んだ場合にも権利が複層的に構成されるため、権利価格の判定に高度な知識と経験が必要になる。
以上から複数の権利者が従前資産を出資して施行される再開発事業においては従前、従後の両方において資産価値の正確な把握が必要であり、ここに不動産鑑定士が必要とされる理由がある。
再開発事業における評価も鑑定評価の範疇になるので評価の原則は変わらないが、「都市再開発法」という仕組みの中で行われる事業のための評価であるため、一般鑑定とは別に高度化する再開発の仕組みに特化した専門の部署が必要となる。近年多様な用途や権利を組み込み複雑化する再開発に対応するため、当研究所では都市開発部を設立し、当該業務で培ってきた知見や経験を活かし、今後は権利変換計画作成業務や管理規約作成などの新業務にも積極的に取り組んで再開発業界に貢献したいと考えている。
「不動産研究」第67巻第1号 不動研だより
「グローバル化時代の都市開発への当研究所の取組み」
都市開発部 部長 阿部 進悦