不動産研究 60-1

第60巻第1号(平成30年1月)特集:建築物における長寿命化時代のコストマネジメント-建設コストとライフサイクルコスト-

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第60巻第1号

新しい年を迎えて(季刊『不動産研究』)

特集:建築物における長寿命化時代のコストマネジメント
 -建設コストとライフサイクルコスト-

建築物の長寿命化とコストマネジメント
 -施設マネジメントの視点から見た建築物の運用管理コスト-

前橋工科大学 工学部 准教授 堤 洋樹

 建築物の長寿命化の重要性など既に言い尽くされているはずなのに、なぜ適切な維持管理が行われず30年程度で更新もしくは放置される建築物が多いのであろうか。最低限の管理コストすら捻出できず修繕や改修の先送りしか選択肢がない状況では、コストマネジメントを行うこと自体が不可能である。そこで建築物の長寿命化のためのコストマネジメントについて議論するたたき台として、建築物の長寿命化に不可欠な管理コストを確保する意義と重要性を関係者全員で共有する方法、そして様々な視点から管理コストのあり方を考察する。

【キーワード】建築物、長寿命化、管理コスト、施設マネジメント、資産価値
【Key Word】Building、Extending Life、Management Cost、Facility Management、Asset Value

ライフサイクルコストに基づいたリニューアルに伴う環境負荷低減効果の総合的検証

広島工業大学 環境学部デザイン学科 主任教授 杉田 洋

  As the construction of recycling system is making progress in the civilized community, the demand for the renovation of existing building facilities is growing and the public is in need of the many-faceted evaluation of renovation plan. This paper analyzes the relationship between economic efficiency and decrease in environmental impact, on the basis of the case studies of 5 renovation projects for existing office buildings, T, M, N, K and A. And “The evaluation method to renovation from the point of environmental view with the consideration of cost effectiveness” is proposed and applied, in order to facilitate the evaluation to renovation on 2 axes, economic efficiency and decrease in environmental impact. Further, the proposed method is being applied to 20 environmental indicators of Green technology projects by Ministry of Land, Infrastructure and Transport (MLIT), and each indicator is evaluated accordingly. As a result of evaluation of 5 renovations by the proposed method, improvements in both economic efficiency and decrease in environmental impacts at 3 sites, T, M and N, are recognized. The evaluation of 20 indicators of Green technology shows that controlling the number of heat source equipment is the most effective method of renovation.

【キーワード】リニューアル、環境負荷、費用対効果、事務所建物
【Key Word】 Renewal, environmental impact, economic efficiency, Office Buildings

建築工事費の動向と価格変動要因
 -価格情報とライフサイクルコストとの関係性-

一般財団法人建設物価調査会 総合研究所 部長 橋本 真一

 建築の工事費には工事原価(コスト)や取引価格(プライス)など情報に応じた特性があり、その動向は建物の部位によっても異なる。長期に亘る有効活用が求められている建築ストックを適切に管理、評価するには、このような工事費の価格形成メカニズムを十分認識することが重要である。特に経年に応じて更新等の投資が行われる仕上げや設備に関する費用は、ライフサイクルコストを把握する上でも重要となる。本稿では、そのような価格情報の動向と変動要因、ライフサイクルコストを考慮した活用について解説する。

【キーワード】コスト、プライス、価格変動要因、ライフサイクルコスト

オフィスビルの不動産鑑定評価
 -ライフサイクルコスト(LCC)と性能に着目して-

公益社団法人ロングライフビル推進協会 総合企画部 課長代理 長谷川 育生
 一般財団法人日本不動産研究所 理事 審査部長 川添 義弘

 建物の長期使用が求められる現代において建物を安心・安全・快適に使い続けるためには、維持保全計画を策定し、建物のライフサイクルを見通しながら費用を積み立て、内外装や建築設備の修繕・更新を行うとともに、利用者のニーズに応えるためにある時点で改修を実施する必要がある。建物の改修に踏み切るためには、オフィスビルの性能がどのように向上するのかを客観的に把握できることが望ましく、建物オーナーの維持保全に係る取り組みが不動産の価値として認められることが重要である。本稿では、オフィスビルのライフサイクルコスト(LCC)及びオフィスビルの性能評価手法を解説し、併せてそれらが不動産鑑定評価でどのように加味されているのかを概説する。

【キーワード】ライフサイクルコスト、オフィスビル性能、不動産鑑定評価
【Key Word】 life cycle cost, performance of office building, real estate appraisal

調査

最近の地価動向について
 -「市街地価格指数」の調査結果(平成29年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

 当研究所は平成29年9月末現在の「市街地価格指数」を11月21日に発表した。「市街地価格指数」 から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均で前期比(平成29年3月末比、以下同じ)0.0%と、前期に続いて横ばいとなり、下げ止まりの傾向がより鮮明になった(前回0.0%)。
  • 地方別の地価動向を全用途平均で見ると、前期に24年半ぶりに上昇に転じた「東北地方」で前期比0.1%と上昇が続いたほか、「関東地方」、「近畿地方」、「九州・沖縄地方」で上昇傾向が継続した。その他の地方においては下落が続いているが、下落幅は縮小傾向にある。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均で見ると、「東京圏」は前期比0.6%上昇(前回0.6%上昇)、「大阪圏」は同0.5%上昇(前回0.5%上昇)、「名古屋圏」は同0.4%上昇(前回0.3%上昇)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の地価動向は、商業地が前期比1.6%上昇(前回1.4%上昇)、住宅地が同0.7%上昇(前回0.6%上昇)、工業地が同2.6%上昇(前回1.8%上昇)、全用途平均で同1.4%上昇(前回1.1%上昇)、最高価格地が平均で前期比3.2%上昇(前回3.1%上昇)となり、上昇傾向が続いている。
  • 「東京区部」の主要商業地(銀座四丁目交差点周辺地区、東京駅丸の内口周辺地区、日本橋二丁目・中央通り沿い地区、新宿駅東口交差点周辺地区、渋谷駅前スクランブル交差点周辺地区)の地価動向は、投資市場における取得競争の活性化、外国人観光客の増加等による繁華性の高まりをうけ、上昇傾向が続いている。
  • 今後については、「全国」では概ね今回と同程度の地価動向が継続する見通しである。三大都市圏の最高価格地では、地価は上昇傾向が継続するが、上昇幅は縮小していく見通しである。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
 最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
 東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
 大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
 名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
 六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、下落幅縮小

山林素地及び山元立木価格の動向
 -2017(平成29)年調査結果をふまえて-

松岡 利哉

 当研究所が2017年10月30日に公表した2017(平成29)年3月末現在の「山林素地及び山元立木価格調」によると、住宅需要が堅調に推移したことや、木質バイオマス発電に向けた燃料材需要が順調であり、素材(丸太)価格が大きく崩れることはなく、山元立木価格は、比較的堅調に推移した。しかしながら、山林素地価格は、A材等の素材価格が伸び悩む状況が継続しており、用材林地の投資採算が好転するには至っていない。
 本稿では、「山林素地及び山元立木価格調」の調査結果に加えて、その後分析した内容を紹介する。

【キーワード】山林素地価格、山元立木価格、素材(丸太)価格

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
 -「全国賃料統計」の調査結果(2017年9月末現在)をふまえて-

富繁 勝己

 当研究所は2017年9月末時点の「全国賃料統計」を11月21日に公表した。オフィス賃料は、全地点の3割強が上昇となり、地方中核都市等で上昇幅が拡大するも、三大都市圏では上昇幅が縮小する地点が増え、全国平均は1.9%上昇と上昇幅がやや拡大した。今回の上昇を2007年のファンドバブル期と比較すると、上昇地点数は近づいているが、5%以上の上昇がファンドバブル期の20地点に対して、今回は5地点と少なく、薄く広い範囲の上昇といえる。共同住宅賃料は、全地点の約8割が横ばいで、全国平均は昨年と同じ0.1%上昇であった。1年後の2018年9月末時点についてオフィス賃料は三大都市圏等で上昇が継続し、全国平均は1.4%上昇と上昇幅がやや縮小、共同住宅賃料は今期と同様に横ばいが継続する見通しである。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測
(2017~2020年、2025年)・2017秋について

金 東煥・手島 健治

 「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2017~2020年、2025年)・2017秋」を10月30日に公表した。まず成約事例を多数収集し、共益費込み賃料のヘドニック分析を行い、その結果を利用してヘドニック型の賃料指数を作成する。次に実質GDP、法人企業の売上高等を使ってオフィス床の需要量及び供給量、賃料指数を求める式を推定し、オフィス賃料変動モデルを構築する。上記モデルで、日本経済研究センターのマクロ経済の予測結果、新規供給量の予測結果等を前提に、2017~2020年及び2025年の賃料及び空室率の動向を予測する。なお前回に引き続き、日本経済研究センターの中期経済予測で標準シナリオと改革シナリオの2通りの予測を行ったことを受け、オフィス賃料予測も2通りの予測結果を公表する。予測結果は、①東京のオフィス賃料等の主な動向は、2018年まで賃料は上昇を維持するが、2018~2020年の大量供給により空室率が上昇し、賃料は下落する。2021年以降の賃料は標準シナリオでやや上昇、改革シナリオでは3%前後の上昇が継続する。②大阪のオフィス賃料等の主な動向は、2020年まで新規供給が少なく、賃料は2~8%上昇が続き、空室率は2020年に3%半ばまで低下する。2021年以降の賃料は標準シナリオでやや下落、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。③名古屋のオフィス賃料等の主な動向は、2017年の大量供給による影響は小さく、空室率が低下し、賃料は上昇。また、2020年までの新規供給の少なさによって、空室率が低下し、賃料は上昇する。2021年以降の賃料は標準シナリオでほぼ横ばい、改革シナリオでは2%前後上昇が継続する。

【キーワード】賃料予測、マクロ計量経済モデル、ヘドニック分析

最近の不動産投資市場の動向
 -第37回不動産投資家調査結果(2017年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

 当研究所は、「第37回不動産投資家調査」の結果を2017年11月21日に発表した。
 調査結果(2017年10月)の概要は以下のとおりである。

  • 不動産投資家の期待利回りは、一部アセットで「横ばい」の地区もあったが、金融緩和の影響等を反映し、全体としては0.1~0.2ポイント程度の「低下」となった。東京のオフィスは、「日本橋」などで下げ止まりも見られたが、本調査の代表的な調査地区である「丸の内、大手町地区」は前回比0.1ポイント低下の3.5%となり、本調査の開始以降最も低い水準を更新した。地方のオフィスは「札幌」「仙台」「さいたま」「京都」が横ばいとなったが、その他は0.1~0.2ポイント低下した。他のアセットも全体としては「低下」傾向であるが、今回調査では「宿泊特化型ホテル」の低下が顕著であった。ホテルは2020年の東京五輪誘致決定などを機にまず東京で投資が活況となったが、最近では地方の中心市街地でもインバウンドの裾野が広がっており、今回調査では「札幌」「福岡」など地方都市のホテルの期待利回りが大きく低下した(「札幌」「福岡」が0.3ポイント低下)。
  • 不動産投資家の今後1年間の投資に対する考えは、「新規投資を積極的に行う」の回答が89%で前回比1ポイント上昇し、「当面、新規投資を控える」の回答が8%で前回比1ポイント低下した。不動産投資市場においてはファンド間の取得競争が激化し、一部で過熱を懸念する声もあるが、金融緩和の影響等を背景に、全体として、投資家の投資意欲は積極的な姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

論考

バブル期の主な土地政策

中島 正人

 日本のバブル期の主な土地政策について、閣議決定されたバブル期当時の要綱等をもとに政策体系を整理した。当時の総合土地政策推進要綱等の政策体系を規制的手法、需給バランスに働きかける手法、基盤環境整備の3手法に大きく分類し、そのもとで土地取引規制、土地関連融資規制、土地に関する負担の合理化、供給促進・土地利用計画の充実等、需要分散、土地の適正評価・情報整備等の6項目で整理し、当時の土地政策を俯瞰している。
 また、時期的に見ると、バブル期の当初は、比較的即効性のある規制的手法がとられたが、土地基本法の成立後は、土地の需給バランスに影響する利害関係が複雑で政策実施に時間を要する戦後長期間課題とされてきた構造的課題に取り組む政策がとられたことを示している。

【キーワード】バブル、土地政策、体系的整理、規制的手法、需給バランス、基盤環境整備

The Appraisal Journal Summer 2017

外国鑑定理論実務研究会

資料

2017(平成29)年[第59巻第1号~第59巻第4号]目次一覧

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