不動産研究 60-4

第60巻第4号(平成30年10月)特集:国際観光と不動産市場

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第60巻第4号

特集:国際観光と不動産市場

国際観光による都市・地域の活性化
 -都市・地域にとってのインバウンド、MICE-

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部 主任研究員 守屋 邦彦

 我が国の経済活性化や地方創生を推進するための手段として「観光」の存在感が高まっている。
特に、人口が減少局面を迎えている中、日本を訪れる外国人旅行者(インバウンド)の更なる増加への期待は高い。近年、インバウンドはアジアの経済成長や国による各種施策の影響により急増しており、また、ビジネス目的の旅行者を獲得する手段としてMICEの誘致・開催も推進されており、都市・地域でインバウンド、MICEの拡大・充実による各種効果が現れている。本稿では、インバウンドへの期待が高まる背景やインバウンドの現状について概観するとともに、インバウンドの増加による都市・地域の活性化、更にはMICEの現状とその誘致・開催による効果などについて述べる。

【キーワード】地方創生、観光、都市・地域、インバウンド、MICE

拡大する世界交流人口とこれからのまちづくりの方向性
 -都市の機能とアイデンティティを同時に高めるまちづくり-

一般財団法人森記念財団 研究員 大和 則夫

 人口減少社会においても活力ある国土を維持していくための一つの鍵となるのが、魅力ある国土の形成によって、拡大する世界交流人口を取り込むことであると考える。そこで、本稿では、東京の「都市の総合力」と地方都市の「個性の力」という観点で都市分析を行った上で、東京の世界的な磁力を高めつつ、魅力ある地方都市とのダイナミックな対流を生み出すための、今後のまちづくりのあり方について考察する。

【キーワード】世界交流人口、都市の総合力、都市の特性評価、都市のアイデンティティ
【Key Word】International Tourism, Comprehensive Urban Power, Urban Attractiveness, Identity

観光インバウンドにおける民泊の役割とその可能性

東洋大学 国際観光学部 准教授 松永 光雄

 2012年の観光立国宣言以来、2020年東京五輪を控えた今日の観光産業は、かつてないインバウンドの波が押し寄せてきている。こうした好調な観光インバウンドに対し、それを受け入れるための宿泊施設不足が新たな課題となっている。そこで、この課題解決策として期待されているのが、既存住宅を利用した「民泊」である。民泊は既存住宅を利用することから、現在社会問題化している「空き家」について、民泊施設として利活用することで、宿泊施設不足解消と空き家問題の同時解決に資することが期待されている。中古住宅市場の活性化を通じて、空き家の民泊施設への用途変更を促進することで、宿泊施設不足解消への可能性を考える。

【キーワード】民泊、空き家、インスペクション、ヤミ民泊、観光立国

北海道ニセコ地区における不動産市場動向と地域経済への示唆

一般財団法人日本不動産研究所 北海道支社 支社長 遠藤 公正
 一般財団法人日本不動産研究所 不動産エコノミスト 吉野 薫

 北海道ニセコ地区におけるスキー場は海外からの需要を取り込みながら発展している。不動産市場においては著しい地価の上昇が見られるとともに、外国人によるコンドミニアムや別荘などの取得が相次ぐなど、現地の不動産市場は活性化したといえる。もっとも、こうした市場の発展段階においては、主に外国人起業家らが主導的な役割を果たしてきたことから、必ずしも日本企業や日本人投資家によるビジネスチャンスが拡大してきたとはいえない。今後も我が国においてインバウンド需要を取り込む形での地域活性化が期待される中、その経済効果を実現するためには、地元企業や自治体による能動的な取り組みや人材育成が不可欠である。

【キーワード】インバウンド観光、国際リゾート、経済波及効果、地域活性化、人材育成

調査

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2018年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

 日本不動産研究所は、2018年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2018年9月12日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2018年1月現在のオフィスビルストックは、全都市合計で12,798万㎡(10,511棟)となり、このうち2017年の新築が146万㎡(69棟)と2005年以来、150万㎡を下回った。また、2017年の取壊しは94万㎡(99棟)であった。今後3年間のオフィスビルの竣工予定は604万㎡で、そのうち東京区部が8割以上を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で3,279万㎡(3,114棟)と同ストックの26%を占める。都市別では福岡(40%)が4割を超え、札幌(39%)、京都(36%)、大阪(31%)、広島(31%)、地方都市(31%)と続いている。
  • 過去3年間の新築量は全国で510万㎡(234棟)に対し、東京区部が340万㎡(140棟)と全体の67%、取壊量は全国で296万㎡(309棟)に対し、東京区部が198万㎡(190棟)と全体の67%を占めている。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

論考

離陸した中国賃貸住宅市場

曹 雲珍

 本研究は、中国において急速に成長する賃貸住宅市場の全体像とその特徴を把握するための基礎研究である。賃貸住宅市場の発展、賃貸住宅の分類や運営業者と入居者の特徴、そして大都市における賃貸住宅市場の問題点を整理し、政府による市場基盤整備の実態を把握するとともに、期待される効果もまとめる。
 2016年末まで、中国国内の賃貸住宅運営業者は1,000以上に上り、賃貸住宅の管理物件数は約200万部屋になり、賃貸住宅市場における年間賃料収入規模は約1兆人民元までに拡大した。このように賃貸住宅市場は様々な課題を抱えながら急成長しており、代表的な課題として賃貸住宅における専門法律がないことと賃貸住宅の土地問題があげられる。賃貸住宅における専門法律については中央政府が制定しているようであるが、公表と実施時期についてはまだ不明である。賃貸住宅の土地問題については、農村建設用地を活用することによって賃貸住宅不足の解消、公共賃貸住宅の増加、家賃負担の軽減の政策効果があると期待されているが、現行法との矛盾点も存在しているため、実施に当たっては法改正などの大きな課題も立ちはだかる。

【キーワード】賃貸住宅市場、賃貸住宅の運営管理、賃貸住宅の基盤整備、賃貸住宅の類REIT

判例研究(107)

建築主事の注意義務違反と国家賠償責任の関係
-判例が建築確認を違法としても国家賠償責任を認めない理由の検討-

関 智文

The Appraisal Journal Spring 2018

外国鑑定理論実務研究会

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