不動産研究 64-1

第64巻第1号(令和4年1月) 特集:気候変動と不動産

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第64巻第1号

特集:気候変動と不動産

木造建築物の多様化による地域と森林の再生
Regeneration of regions and forest through timber buildings’ diversification

宇都宮大学 地域デザイン科学部建築都市デザイン学科 教授 中島 史郎

建築物の木造化や木質化について、地球温暖化防止への効用、持続的な資源利用に対する寄与、地域の産業と人と人とのつながりを維持することに対する効果について考察した。一定の条件を設けて計算すると、木造・木質化によりCO2換算で年間約0.056億tonの炭素を建築物の中に蓄積することができる可能性があるという試算結果を得た。また、材積では約760万m3の木材(製品ベース)の新しい需要を期待することができる可能性があるという試算結果を得た。一方、木造建築の需要の拡大を森林資源の消費と再生産につなげること、地域の資源と地域の産業を使って環境負荷の小さい製品を地域で生産し、その製品を建築に広く用いること、さらに木材利用を共通事項とする全国規模のネットワークを構築することの重要性を示した。

【キーワード】森林資源、木造・木質化、炭素固定、ネットワーク、地域
【Key Word】Forest Resource, Conversion to Wood, Carbon Sink, Network, Region

TCFDの潮流と不動産取引への影響 −気候変動への対応が不動産市場にもたらす変化−
TCFD Trends and Impact on Real Estate Transactions

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 岡田 嘉邦

地球温暖化に伴う台風・豪雨・洪水被害の激甚化など環境問題への関心が高まる中、気候変動に関する企業のガバナンスとリスクマネジメントの高度化、開示を求めるイニシアティブである「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に注目が集まっている。TCFDはグローバルで投資家や金融機関の視点に変化をもたらし、各国や企業による気候変動対応への動きを加速させている。TCFDは、企業が不動産を選別する視点を変化させ、不動産取引のあり方にも大きな影響を与えるものと考えられる。(本稿の内容はあくまで筆者による個人的見解であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。)

【キーワード】TCFD、気候変動、不動産市場、物理的リスク
【Key Word】TCFD, Climate change, Real estate market, Physical risk

不動産のレジリエンス評価に対する新たな取組み −D-ismプロジェクト−
Development of integrated scoring for maximizing property resilience

野村不動産投資顧問株式会社 執行役員運用企画部長 下道 衛

 近年日本で発生する災害(地震、台風、水害、土砂災害など)は、年々その力を強め激甚化の傾向にあり、特に地球の気温上昇による気候変動リスクは、今後増々高まっていくと思われる。
 一方、TCFDの賛同者数は年々増加しており、その取組みへの盛り上がりも見せている。D-ismプロジェクトはその概念に着目し、足元で発生する日本の物理的リスクに焦点をあて、レジリエンスという切り口で新たな機会を創出するべく、スコアリングによる可視化と対策の促進を行い、人々の安全・安心な生活の実現を目指している。さらに、本プロジェクトは世界共通の目標であるSDGs達成に貢献し、次世代へ紡ぐ、そのような想いで集まった7社の取組みである。
 この取組みが広く普及しレジリエンスの高い不動産が増えていくことを、私たちは切に願っている。

【キーワード】 不動産のレジリエンス、TCFD、リスクと機会の可視化、安全・安心な生活

防災・減災に対応した不動産活用

一般財団法人日本不動産研究所 公共部参事 髙橋 英嗣

近年、気候変動等に起因する激甚化・頻発化する自然災害の発生によって、防災・減災に対応した不動産活用の必要性が高まっている。本稿では、最近の国・行政と民間における動向と民間不動産による具体的な取組事例等について紹介する。

【キーワード】 自然災害、国土強靱化、ハザードマップ、BCP、CRE、防災マンション、災害リスクと不動産市場

調査

最近の地価動向について
-「市街地価格指数」の調査結果(2021年9月末現在)をふまえて-

平井 昌子

当研究所は2021年9月末現在の「市街地価格指数」を2021年11月25日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。

  • 「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2021年3月末比、以下同じ)0.0%となった。
  • 地方別の地価動向は、コロナ禍の影響で商業地では下落が続いた地方が多く、概ね前期と同様の傾向となった。
  • 三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比0.5%上昇、「大阪圏」は同0.1%上昇、「名古屋圏」は同0.0%となり、前期と比較すると回復がみられた。
  • 「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比0.6%上昇、商業地で同0.1%下落、住宅地で同0.7%上昇、工業地で同2.8%上昇となり、商業地は下落しているが、他の用途では回復傾向が続いた。

※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸

【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、地価下落

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について
-「全国賃料統計」の調査結果(2021年9月末現在)をふまえて-

曹 雲珍

当研究所は2021年9月末時点の「全国賃料統計」を11月25日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の約7割が前年から横ばいであるが、東京圏と大阪圏が下落に転じた影響で、全国平均では前年までの7年連続の上昇から0.5%の下落に転じた。地方別では、北海道地方で3.2%、九州地方で1.3%上昇したが、その他の地方は横ばいもしくは下落となった。共同住宅賃料は、調査地点の8割強が前年から横ばいであるが、東京圏と大阪圏等での上昇を受け、全国平均は前年から0.2%上昇となった。地方別では、北海道地方、関東地方、近畿地方及び九州地方で上昇したが、その他の地方は下落もしくは横ばいとなった。1年後の2022年9月末時点についてオフィス賃料は多くの都市が横ばいの中、東京圏と大阪圏では下落が続き、全国平均は0.3%下落、共同住宅賃料は全国平均で0.2%の上昇と予想している。

【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向

最近の不動産投資市場の動向
-第45回不動産投資家調査結果(2021年10月1日現在)をふまえて-

愼 明宏

当研究所は、「第45回不動産投資家調査」の結果を2021年11月25日に公表した。
調査結果(2021年10月)の概要は以下のとおりである。

  • 期待利回りは、オフィスや住宅、物流施設では前回調査からの低下が多くみられた。オフィスについては、「東京・丸の内、大手町」地区の期待利回りが前回比0.1㌽低下し3.4%となった。同地区の変化は2017年10月調査以来4年ぶりで、コロナ禍で緩和的な金融環境の下、優良物件への選好度の高まりが要因とみられる。そのほかオフィスでは東京「渋谷」や「横浜」「名古屋」「大阪(梅田)」などでも前回比0.1~0.2㌽低下した。住宅については、東京・城南・ワンルームタイプの期待利回りが前回比0.2㌽低下し4.0%となった。同タイプはコロナ禍前の2019年10月調査以来4回連続で4.2%が続いたが、今回調査で2年ぶりの変化がみられた。住宅は「横浜」や「大阪」「神戸」などでも0.1~0.3㌽低下し、コロナ禍で住宅の安定性が市場で再認識された。物流施設については、前回調査に続き、東京や大阪など多くの地区で前回比0.1~0.2㌽の低下となった。コロナ禍による人流抑制の影響が大きかった都心型商業施設やホテルは前回比横ばいが多くを占めたが、一部の調査地区では前回比0.1㌽程度の低下という変化もみられた。
  • 今後については回答者の95%が「新規投資を積極的に行う。」としており前回調査よりも1㌽上昇した。金融緩和の下、潤沢な投資マネーが市場を席捲しており今回調査でも積極的な姿勢が維持された。

【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲

全国のオフィスビルストックの状況
-「全国オフィスビル調査(2021年1月現在)」の結果をふまえて-

富繁 勝己

日本不動産研究所は、2021年1月に全国オフィスビル調査を実施し、2021年10月12日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。

  • 2021年1月現在の調査対象のオフィスビルストックは、全都市計で13,178万㎡(10,572棟)となった。このうち2020年の新築は225万㎡(64棟)、2020年の取壊しは67万㎡(81棟)であった。今後3年間(2021 ~ 2023年)のオフィスビルの竣工予定は437万㎡(148棟)で、そのうち東京区部が63%を占める。
  • 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市計で3,122万㎡(2,947棟)とストック全体の24%を占める。都市別でみると、福岡(40%)、札幌(36%)、京都(35%)、広島(31%)、大阪(30%)、地方都市(30%)と続く。
  • 規模別ストック量をみると、10万㎡以上のビルが東京区部で26%と突出して高い。逆に5千㎡未満は地方都市が22%と最も高い。築後年数別では、築10年未満のビルが三大都市では10%を超えており、主要都市・地方都市より築浅のビルの割合が大きい。また、建替候補となる築40年以上のビルの割合は、東京区部では19%と他の都市に比べて少ない。

【キーワード】全国オフィスビル調査、オフィスビルストック、新耐震基準、オフィスビル取壊

論考

2022年の不動産市場
-マクロ経済動向から占う不動産市場の見通し-

吉野 薫

2021年の日本経済は持ち直しの途上にあるものの、その足取りは鈍かった。不動産の実需の回復は出遅れているといえる。その一方、不動産市場を巡るファイナンス環境に変調は見られず、不動産投資市場における物件取得意欲は依然として強い。このまま新型コロナウイルス感染症の終息が続けば経済活動の回復も本格化し、ひいては不動産に対する実需も一層強まることが期待される。しかし景気の下振れリスクは大きく、とりわけ製造業を中心とする企業活動の動向に注視しなければならない。2022年にかけて経済主体のマインドが着実に改善していくことが、不動産市場の一段の回復の前提条件となる。足下で企業物価が上昇しているが、緩和的な金融政策は当面継続する筋合いであり、不動産投資市場における活況は2022年も継続するであろう。

【キーワード】新型コロナウイルス感染症、企業の設備投資、雇用マインド、金融仲介機能
【Key Word】Covid-19, capital investment, employment confidence, financial intermediary function

民間不動産会社イニシアチブによる地方創生の取り組み
-ビジネスと地域社会の持続可能性を模索するULI NEXTの挑戦-

吉野 薫・南川 しのぶ

我が国におけるインバウンド観光振興の“成功例”として夙に知られる北海道倶知安町は、2019年度に「観光振興計画」を改訂するとともに「観光地マスタープラン」を策定し、それぞれの計画期間の終期である2031年度に向けて新たな歩みを進め始めた。時を同じくして、民間不動産会社およびその役職員等で構成されるグローバルな非営利団体Urban Land Institute(ULI)の日本組織の下部に、若手・中堅のメンバーで構成されるイニシアチブであるULI NEXTが発足し、活動を開始した。彼らは活動の初期から「持続可能な地方創生」をテーマとして掲げ、その最初のフィールドとして倶知安町を中心とする北海道ニセコ地区を選んだ。本稿は彼らによる活動の足跡を紹介するとともに、その意義を考察する。特に、彼らの実践と気付きを教訓として、民間企業が関与する「持続可能な地方創生」の可能性を論じる。

【キーワード】持続可能な地方創生、DMO、PPP/PFI、住民のQOL
【Key Word】sustainable regional revitalization, DMO, PPP/PFI, residents’ QOL

The Appraisal Journal Summer 2021

外国鑑定理論実務研究会

不動研だより

米国不動産ルポ
Covid-19パンデミックの米国事務所ビル市場への影響

藤木一彦

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