株式会社日本政策投資銀行 産業調査部経済調査室 副調査役 合津 智裕
2000年代初頭に住宅の私有化によって成立した中国不動産市場は、投資主導の経済成長モデルの中で大きく発展し、中国経済に強い影響力を及ぼすに至った。他方で、発展の背景には市況の過熱を生む特有の構造的要因があり、2010年代後半からは政府主導のもとで構造改革が進められている。この構造改革に伴う「痛み」として、不動産開発企業の信用不安が長期化しているが、調整の軟着陸は可能との見方が優勢である。ただし、人口減などバブル後の日本と類似する点がある中、投資に代わる成長の柱と期待される消費は弱く、デフレ化や潜在成長率の低下などの「日本化」への懸念は、当面続くと考えられる。
【キーワード】中国不動産、投資依存、灰色のサイ、バランスシート調整、日本化
不動研(上海)投資諮詢有限公司 董事・総経理 林 述斌
2021年後半から恒大集団の債務問題をきっかけとして、中国の不動産マーケットに対する関心が高まっている。中国経済において、住宅は大きな影響を与える要素でもあるが、現在の中国の不動産市況は、政府による様々な緩和策にもかかわらず、いまだ回復の兆しが見えず低迷が続いている。本稿においては住宅マーケットの現状を紹介し、中国経済を支える重要な要素の1つである中国の不動産市場の展望について述べる。
【キーワード】 中国不動産、住宅、緩和策、展望
株式会社ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究員 胡 笳
中国のREIT市場はコロナ後の景気不況の影響を受けつつも、銘柄数は増えており、低迷していた市場規模は再び拡大に転じることが期待される。本稿では、中国REIT創設の経緯を振り返って、中国REIT市場の現状を報告し、今後の見通しを展望する。
【キーワード】中国REIT、インフラ公募REIT、類REIT、Pre-REIT
【Key Word】C-Reit, China’s Infrastructure REIT, Lei-Reit, Pre-Reit
一般財団法人日本不動産研究所 研究部兼国際部 主席研究員 曹 雲珍
本研究では、中国の住宅流通における不動産テックの全体像を把握するとともに、58安居客、貝殻找房などの代表的な企業分析を行い、それぞれのDXの活用実態と特徴をまとめる。特に、中国住宅流通サービスの変革を引き起こした不動産テックのユニコーン企業である貝殻找房に関しては、ITテクノロジーの技術分析だけではなく住宅流通業界への影響についても掘り下げる。
中国の代表的な住宅関連プラットフォームは、いわゆる物件情報検索サイトの機能だけではなく、物件情報管理、顧客情報管理、業務管理、人事管理、財務管理、経営管理などを有する営業支援型の統合ツールとしての側面も大きく、①専用アプリによる業務効率化、②仲介プロセス進行過程の見える化、③手数料配分精算による業務積極性の向上、④営業状況の数値化、⑤AI技術の運用、⑥アルゴリズム技術の運用、⑦ビッグデータの解析の機能と効果を有している。
【キーワード】中国不動産仲介業界DX、ITテクノロジー、中国住宅流通プラットフォーム
佐藤 修
当研究所は2024年3月末現在の「市街地価格指数」を2024年5月29日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
①「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2023年9月末比、以下同じ)1.0%上昇となり、2022年3月末調査で上昇に転じて以降、今期も上昇が続いた。
②地方別の地価動向は、総じて回復傾向が続き、全用途平均では全ての地方で上昇となった。
③三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」は前期比2.3%上昇、「大阪圏」は同1.4%上昇、「名古屋圏」は同1.2%上昇となり、回復傾向が若干拡大した。
④「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.4%上昇、商業地で同2.6%上昇、住宅地で同2.2%上昇と各用途で上昇傾向が強まり、工業地では同2.5%上昇と同率であった。
※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸
【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、長期的地価指数
岩指 良和
当研究所は、「第50回不動産投資家調査」の結果を2024年5月29日に公表した。
調査結果(2024年4月)の概要は以下のとおりである。
(1)期待利回りの動向は、各アセットで「低下」と「横ばい」が混在する結果となった。オフィスは、「東京・丸の内、大手町」の期待利回りは3.2%で3期連続の横ばいとなり、その他の東京のオフィスエリアも全て横ばいとなったが、地方都市で期待利回りが0.1㌽低下する地区と横ばいの地区が混在する結果となった。住宅は、「東京・城南」のワンルームタイプとファミリータイプの期待利回りはともに3.8%で横ばいとなった。また、地方都市では横ばいと低下が混在する結果となった。商業店舗は、「都心型高級専門店」は多くの調査地区で期待利回りが横ばいであったが、「郊外型ショッピングセンター」は多くの調査地区で低下し、「札幌」では0.3㌽低下した。物流施設(マルチテナント型、内陸部)は、「東京(多摩地区)」が4.1%の横ばいであったが、「千葉」、「名古屋」、「福岡」の3地区では0.1㌽低下する結果となった。ホテルは、観光需要等の回復から多くの調査地区で0.1㌽低下し、「東京」は4.3%でコロナ禍前の最低値(4.4%)を更新した。
(2)今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が95%で横ばいとなった。マイナス金利政策は解除されたものの緩和的な金融環境は維持されており、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が維持されている。
【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲
近藤 共子
20世紀後半を通じて土地騰貴が繰り返されたが、バブル期と異なり、列島改造期以前、特に、1950年代初頭や1960年代初頭の土地騰貴の詳細は必ずしも十分には把握されていない。一方、戦前より継続調査されてきた市街地価格指数はじめ入手可能な情報から20世紀後半の地価高騰を俯瞰すると、1946-47年頃の高騰の際には、終戦直後もインフレの影響が大きい中でも、戦災都市、非戦災都市を通じて、多岐に及ぶ実需の影響も窺われること、1950年代初期の高騰はビルブームも背景に大都市の商業地中心としたものであったこと、1960年初期の高騰は、高度経済成長期、産業投資が拡大した時期には、価格水準がさほど高くなかった工場地価格が大きく上昇したこと、さらに、戦後初期から活発な土地投資、投機的取引もみられたこと、農地と市街地の問題は早期から懸念され続けてきたことなども確認できる。
The post-war era in Japan saw continual property price inflation: the property price inflation in1946-47, the inflation of commercial area in the early 1950s, and the dramatic price rise of industrial areas triggered by the full scale industrial development in regions in the early 1960s, the high economic growth period. The trajectory was traced only by the urban land price index published from 1936 by the JREI. Land and property policy issues including sprawl of farm land, effects of easy money situation, and land speculation, had already been raised during the two decades, which ministries tackled after the nationwide spread of speculation in the 1970s.
【キーワード】高度経済成長期、インフレ、地価高騰、土地騰貴、市街地価格
【Key Word】the high economic growth period, land property boom, property price inflation, hyperinflation
海外不動産市場研究会
本社事業部 参事 建物専門チーム 立石 正則