早稲田大学 名誉教授 小松 幸夫
日本は戦後の高度経済成長時代を通して、建物の大量建設と廃棄を繰り返してきた。またいわゆる法定耐用年数すなわち減価償却のための耐用年数を建物の使用可能年数とみなす傾向が強いが、法定耐用年数の設定経緯にさかのぼると、それを使用年数とみなすことは適切ではないことがわかる。また固定資産税関係のデータに基づいた建物寿命の調査結果からは、法定耐用年数との乖離が明らかである。建物は適切なメンテナンスにより何年でも使用が可能であり、物理的にはストックとして活用することは十分に可能である。さらにストック活用には、不動産の価値評価や流通面での課題を認識し解決を図ることが必要である。
【キーワード】 耐用年数、減価償却、建物寿命
【Key Words】Useful life, Depreciation, Building life
東洋大学大学院 客員教授 天神 良久
わが国の少子化の波は単に子供の人数が減るだけではなく、街に建っている既存の小学校が廃校になる事態に追い込まれている。何十年にわたって、その地域の中心に建っていた「小学校」の廃校は、学校から子供たちの元気な声が聞こえなくなり、また、近隣の住民にとっても地域の「シンボル的な施設」が無くなる疲弊感に包まれている。令和4年の文部科学省報道発表資料によると、平成14年度から令和2年度の18年間で発生した全国の公立小中学校等廃校数は8,850校におよぶ。そうした中、廃校の利活用に関しては公共だけのアイデアではなく、民間からの知恵を得て廃校を用途変更している事例が全国で徐々に発表されだしている。今回は本誌面を使って、廃校をリノベーションして大活躍している3例を紹介する。まさに公民連携事業が動き始めている。
【キーワード】 既存建物ストック、廃校、リノベーション、公民連携
【Key Word】 Existing building stock, Abandoned school, Renovation, Public Private Partnership
一般社団法人リファイニング建築・都市再生協会 理事長 青木 茂
長寿命建築の定義は曖昧であるが、「用・強・美」を考慮した視点から考察する。「用」は建物の用途に合った設計、「強」は耐震性を備えた構造と考える。「美」は建物の見た目やデザインの価値に関する要素で、古い建物でも美しさと機能性を維持できるなら価値が高くなる。建物の長寿命化の手法として新たに「リファイニング建築」という概念を提唱し、「リフォーム、リノベーション」と比較しつつ、「リファイニング建築」の具体的な手法とその効果を紹介する。
【キーワード】長寿命建築、リフォーム、リノベーション、リファイニング建築
佐藤 修
当研究所は2024年9月末現在の「市街地価格指数」を2024年11月27日に公表した。
「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。
「全国」の地価動向は、全用途平均(商業地・住宅地・工業地の平均、以下同じ)で前期比(2024年3月末比、以下同じ)1.1%(前回1.0%)、前期に続き上昇となった。
地方別の地価動向は、総じて回復傾向が続き、全地域全用途において下落が皆無となったが、一方で、住宅地の上昇の勢いが弱まった地域が出始めた。
三大都市圏の地価動向を全用途平均でみると、「東京圏」で前期比2.4%(前回2.3%)、「大阪圏」で前期比1.4%(前回1.4%)、「名古屋圏」で前期比1.0%(前回1.2%)となった。上昇率は東京圏で拡大傾向が続いたが、名古屋圏では縮小した。
「東京区部」の地価動向は、全用途平均で前期比2.8%(前回2.4%)、商業地で前期比3.2%(前回2.6%)、住宅地で前期比2.6%(前回2.2%)、工業地で前期比2.3%(前回2.5%)となった。
※全用途平均:商業地、住宅地、工業地の平均変動率
最高価格地:各調査都市の最高価格地の平均変動率
東京圏:首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む都市
大阪圏:近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む都市
名古屋圏:中部圏開発整備法の都市整備区域を含む都市
六大都市:東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸
【キーワード】市街地価格指数、全用途平均、地価上昇、長期的地価指数
曹 雲珍
当研究所は2024年9月末時点の「全国賃料統計」を11月27日に公表した。オフィス賃料は、調査地点の6割以上が前年から横ばいであるが、東京圏は3年連続の下落から上昇に転じ、全国平均も3年ぶりに上昇に転じた。地方別では、四国地方を除いて全ての地方が横ばいもしくは上昇し、特に北海道地方の上昇幅が最も大きかった。共同住宅賃料は、調査地点の5割以上が前年から横ばいであるものの、東京圏と大阪圏などの連続上昇を受けて全国平均も4年連続で上昇した。地方別では、四国地方を除いて全ての地方が横ばいもしくは上昇した。1年後の2025年9月末時点についてオフィス賃料は多くの都市が横ばいの中、東京圏と大阪圏の回復により、全国平均は0.7%上昇、共同住宅賃料は全国平均で0.9%の上昇と予想される。
【キーワード】全国賃料統計、賃料指数、オフィス、共同住宅、市場動向
岩指 良和
当研究所は、「第51回不動産投資家調査」の結果を2024年11月27日に公表した。
調査結果(2024年10月)の概要は以下のとおりである。
(1)期待利回りの動向は、各アセットで「低下」と「横ばい」が混在しつつもアセットによりその比率が異なる結果となった。
・オフィスは、「東京・丸の内、大手町」の期待利回りは3.2%で4期連続の横ばいとなり、その他の東京のオフィスエリアと地方都市においてもほぼ横ばいの結果となった。
・住宅は、「東京・城南」のワンルームタイプとファミリータイプの期待利回りはともに3.8%で横ばいとなった。また、地方都市では横ばいと低下が混在する結果となった。
・商業店舗は、「都心型高級専門店」は横ばいと低下が混在し、「郊外型ショッピングセンター」は「大阪」と「福岡」以外の調査地区では横ばいの結果となった。
・物流施設(マルチテナント型、湾岸部)は、「東京(江東地区)」が3.8%の横ばいであったが、「名古屋」、「大阪」の2地区では0.1㌽低下する結果となった。
・ホテルは、多くの調査地区で0.1㌽低下し、「東京」は4.2%で調査開始以来の最低値を2期連続で更新した。
(2)今後については、「新規投資を積極的に行う。」という回答が94%で1㌽低下したが、「新規投資を控える。」という回答も3㌽低下し2%となった。緩和的な金融環境は維持されており、不動産投資家の非常に積極的な投資姿勢が維持されている。
【キーワード】不動産投資家調査、利回り、新規投資意欲
手島 健治
日本不動産研究所は、2024年1月時点の全国賃貸オフィスストック調査を実施し、2024年11月29日に結果を公表した。主なポイントは以下の通りである。
① 2024年1月現在の賃貸オフィスストックは、全都市で15,139万㎡(20,021棟)となり、東京区部が床面積ベースで56%を占める。このうち2023年の新築は336万㎡(181棟)で、東京区部は73%を占める。今後3年間(2024 ~ 2026年)のオフィスビルの竣工予定は869万㎡(330棟)で、東京区部が61%を占める。
② 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックは、全都市で2,656万㎡とストック全体の18%を占める。都市別で割合が高い都市は、福岡市(25%)、大阪市(24%)、札幌市(24%)、京都市(23%)、地方都市(21%)と続く。
③ 規模別ストック量では、10万㎡以上のビルは千葉市が幕張地区の影響で53%と高く、次に東京区部で29%と続き、逆に5千㎡未満は京都市が32%、地方都市が30%、さいたま市が26%と高い。築後年数別では、築10年未満のビルが東京区部で19%、次に名古屋市とさいたま市が18%と続き、地方都市と神戸市、千葉市は6 ~ 7%と新しい築年数のビルは少ない。
なお、今回から調査方法を変更しており、昨年まで行っていた全国オフィスビル調査とは直接接続しない。
【キーワード】全国賃貸オフィスストック調査、新耐震基準、規模別・築後年数別オフィスビルストック
吉野 薫
2024年の不動産市場においては、金融政策の正常化と建築費の高騰が不動産市場関係者の間で大きな話題となった。このうち前者の影響は不動産市場におけるファイナンスコストの上昇として顕在化している。また後者は着工の鈍さとなって現れている。一方、2024年の不動産市況を振り返ると、特段の変調は認められなかった。地価の上昇は継続し、不動産投資家の投資意欲も積極的なまま保たれた。また賃貸市場についても改善がみられ、特に東京におけるオフィス賃貸市場は当初の想定よりも明確な底入れをみせた。住宅賃料の上昇も実感される1年となった。2025年にかけては実体経済の回復は鈍いものと想定され、賃貸市場の改善が継続するか否かが注目される。日本銀行は今後も積極的に金融正常化を進める姿勢をみせているが、物価目標の達成の可能性に対する懐疑的な見方も根強い。また、たとえ日本銀行の想定どおりに経済・物価情勢が進展するとしても、2025年の政策金利引き上げのペースは緩やかなものに留まるであろう。したがって2025年も不動産価格が維持される可能性が高い。一方、金利上昇下であっても不動産価格が維持されるための重要な前提条件として、(1)賃貸市場の改善に対する期待感が強まること、及び(2)金融機関の貸出態度が保たれること、が挙げられる。特に後者については、金融・資本市場の動乱が金融機関の財務の健全性を損なうリスクが意識されるほか、中長期的には不用意な財政拡大に起因する資金循環の構造変化も無視できないリスク要因である。
【キーワード】ファイナンスのコストとアベイラビリティ、インフレ期待、実質賃金、企業の業容拡大意欲
【Key Word】Cost and Availability of Finance, Inflation Expectation, Real Wages,Corporate’s Appetite for Capital Investmen
パシフィックコンサルタンツ株式会社 DS事業本部 本部・DS推進室 室長 札本 太一
DS事業本部 DX事業推進部・サービス創生室 轟 綾乃
DS事業本部 DX事業推進部・都市DX室 道端 智紀
佐野 洋輔
浅尾 輝樹
住宅流通業界や不動産鑑定業界における流動人口ビッグデータの活用は限定的であり、多くの可能性に満ちている。流動人口ビッグデータは単に特定の場所、日時における滞在者数を把握できるだけでなく、契約その他のデータと紐付けて属性別の滞在者数を把握できるという特長がある。本稿では、この特長に着目し、流動人口ビッグデータから属性別の地域内転入数の把握に挑戦した。
【キーワード】流動人口ビッグデータ、全国うごき統計、エリア別転入者数
都市開発部 部長 阿部 進悦