不動産研究 50-1

第50巻第1号(平成20年1月)特集:製造業のグローバル化の進展と工場立地

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新年のご挨拶

五十嵐健之

特集

製造業のグローバル化と工場立地の変容

松原宏

2002年以降、景気の回復局面において、製造業の国内立地が活発化している。しかも、グローバル競争の下、研究開発と生産体制の一体化が求められる中で、立地点は大都市圏地域とその周辺に絞り込まれる傾向にある。海外立地の淘汰・進化も併行しており、国内拠点と海外拠点との分業関係は、工程間の垂直的な分業だけでなく、水平展開をも交え、複雑化してきている。国内立地の活発化を受け、工業地地価も上昇傾向に転じ、より大規模な用地・建物を求める企業が増える一方で、工業団地が不足する地域もあり、工業用地面での立地制約が増しつつある。今後の政策展開においては、人材育成とともに工場適地の確保が重要な課題となっている。

特集

我が国製造業の立地要因変化と国内立地環境の優位性について

瀬川直樹

立地の"国内回帰"とも称される近年の国内工場立地件数の回復は、市場環境の変化が我が国製造業の利益確保に向けた諸戦略に変化を迫りつつあるなかで、国内事業環境が再評価された結果とみることができる。我が国における勝れて安定的な社会経済基盤はもとより、我が国製造企業がこれまでに蓄積してきた高度製造技術や優れたサプライヤー群、そしてそれらを下支えする高度産業人材("予備軍"の可能性を含む)の存在など、様々な資源を擁する我が国の立地環境の優位性は、詳細な分析のうえでより積極的に評価されるべきである。
本稿では、それらの再評価がいかなる環境・条件変化によりもたらされ、そしていかなる側面が評価された結果であるのか、これらの問題意識に接近すべく、我が国製造企業に対して実施したアンケート調査結果をもとに、いくつかの仮説的検証を実施した。

特集

技術サイクルと設備投資の観点からみた工場立地の変動 ―薄型パネルディスプレイ(FPD)産業の動向から―

近藤章夫

グローバルに見渡せば、薄型パネルディスプレイ(FPD)産業の生産拠点は東アジアに集中している。特に、パネル生産は日本、韓国、台湾の3カ国で9割以上を占める。また国内に目を転じても、シャープの液晶パネルは亀山、松下のプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)は茨木・尼崎など、生産拠点の地理的集中が顕著である。以上の観察的事実と現代経済の大きな環境変化を出発点とし、本論では薄型パネルディスプレイ(FPD)の工場立地について、技術サイクルと設備投資の観点から立地条件と変動要因を検討する。FPDメーカーの事例から、生産の大規模化と技術サイクルの短縮化が進展しつつあり、競争力の維持には事業環境としてのクラスターの「厚み(thickness)」が重要になってきていることが示唆される。

論考

グローバル競争時代の産業立地 -今日的状況のスケッチ(1)-

安達俊雄

判例研究

公共事業用地・代替地の買収価格等の非開示情報該当性 (最高裁平成18年7月13日判決・判例時報1945号18頁)

中原洋一郎

大阪府土地開発公社が個人及び法人から取得した公共事業用地及び代替地の買収価格等が情報公開条例第8条各号の非開示情報に該当しないとして、大阪府知事による非開示決定の取り消しが命じられた事案である。
本判決は、平成17年7月15日及び平成17年10月11日に最高裁にて示された公共事業用地の先行取得に関する判断を踏襲したものである。なお、これらの2判決では、土地の買収価格と異なり、建物等の補償価格は非開示情報に該当すると判示されている。

調査

最近の地価動向について ―「市街地価格指数」の調査結果(平成19年9月末現在)をふまえて―

松岡利哉

日本不動産研究所は平成19年9月末現在の「市街地価格指数」を11月20日に発表した。「市街地価格指数」から見た最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。(1)「全国」:商業地・住宅地・工業地の各用途で下落幅の縮小傾向が継続。(2)「六大都市」:全ての用途で上昇が継続するが、工業地を除き上昇力はピークアウト。(3)三大都市圏では「東京圏」の上昇率が突出して大きく、上昇幅も拡大傾向を継続。(4)「東京区部」の上昇率は依然大きいが、上昇幅は縮小。(5)今後の地価の見通しでは、六大都市のような大都市では上昇力が鈍りながらも地価上昇が継続し、地方都市においては下落幅縮小の流れのなかで、地方によっては下落幅が再拡大する兆しが見受けられる。

調査

最近のオフィス及び共同住宅の賃料動向について ―「全国賃料統計」の調査結果(2007年9月末現在)をふまえて―

手島健治

日本不動産研究所は2007年9月末時点の「全国賃料統計」を11月20日に発表した。「全国賃料統計」からみた最近の賃料動向の主な特徴は以下のようになっている。オフィス賃料は、全国的に上昇傾向は継続した。地方別では、近畿地方で上昇幅が拡大、関東地方、中部・東海地方、東北地方、沖縄地方で上昇幅が縮小、北海道地方、中国地方は下落から上昇に反転している。共同住宅賃料は、全国的にほぼ横ばいから若干の上昇に転換した。地方別では、関東地方で上昇が続き、近畿地方、北海道地方で横ばいから上昇に転換、東北地方、中部・東海地方、九州地方、沖縄地方は下落から上昇に反転している。今後の賃料についてはオフィス賃料も共同住宅賃料も上昇幅は縮小するが今後も上昇が続くと予想している。

調査

最近の不動産投資市場の動向について ―第17回不動産投資家調査結果(2007年10月1日現在)をふまえて―

市川丈

日本不動産研究所は、17回目を数える「不動産投資家調査」の結果を11月8日に発送した。
サブ・プライムローン問題が世論を賑わし始めた頃に回収したアンケート結果に基づく今回の特徴は、以下の4点に集約される。

  • 新規投資へ9割超が、引きつづき積極的な姿勢
  • 収益性の高い地域ではもう一段の利回りの低下と地方の賃貸住宅一棟では低下に減速感
  • オフィス賃料水準予測では、大半の地区で前回から据置だが、明暗分かれた地区もある
  • 丸の内・大手町地区での想定借入金利とリスクプレミアムは、三調査回連続の横這い

都心における投資対象不動産の価格高騰が、地方の投資市場へ波及したことで、過去三回の調査では、都心での利回り低下に一服感が見られていたが、今回、丸の内・大手町地区を中心に、さらなる利回り低下が観察された。
回答者数が104社に上った今回調査では、再び低下を示した丸の内・大手町地区の期待利回りについて今後の動向を予測するため、変動係数の比較、細項目から求められる計算上の期待利回りとアンケート結果による直接的な期待利回り等を分析・検討した。

調査

主要都市におけるオフィスビルストックの現況 ―2006年JREIオフィスビル調査結果をふまえて―

手島健治

日本不動産研究所は2006年12月末時点の全国主要都市のオフィスビルを対象に、棟数や延床面積、建築年等を把握するために調査を実施し、その結果を10月29日に発表した。全都市ストックは、床面積で8,349万m2、棟数では5,362棟で、三大都市が6,469万m2(東京区部4,723万m2、大阪1,262万m2、名古屋483万m2)、主要都市が1,879万m2(横浜393万m2、福岡326万m2、札幌242万m2、仙台195万m2、千葉194万m2、神戸173万m2、広島162万m2、京都105万m2、さいたま89万m2)となっており、東京区部が全体の56%と多く、巨大なオフィス市場を形成している。築後年区分でみるとどの都市もバブル前後での供給が多いが、東京区部は築5年未満の供給が多く、近年の供給は東京区部を中心に行われている。また東京区部の築5年未満の平均規模は以前の2.5倍と大規模化が顕著にあらわれている。

海外論壇

The Appraisal Journal Summer 2007

外国鑑定理論実務研究会

資料

不動産統計

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト-2007年9月初旬~2007年11月末-

資料

2007(平成19年)[第49巻第1号~第49巻第4号]目次一覧

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