不動産研究 49-3

第49巻第3号(平成19年7月)特集:これからの「不動産の有効活用」

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特集

PRE/CREとFMの施設資産評価―公共施設資産、企業施設資産の戦略的マネジメントについて―

松成 和夫

本稿は、現在、時代のキーワードになりつつあるPREとCRE、 あるいはPRE戦略とCRE戦略について、ファシリティマネジメント(FM)の視点からの論考である。ここでは、PRE(Public Real Estate)は公共施設資産の戦略的マネジメントを表し、CRE(Corporate Real Estate)は企業の施設資産の戦略的マネジメントを表す言葉としている。 政府・地方自治体などの公共施設、企業が使用する施設としての不動産は、「財産」から「経営資源」へと位置づけを転換しようとしている。 FMは、不動産を事業のための経営資源として捉え、その有効活用、効率化を図る経営活動でもある。そうしたFMの視点から見たPRE/CREの状況とともに、その普及・啓発の一助となるFM財務評価技術の一要素である施設資産評価の概要を紹介する。

特集

公共所有施設への投資傾向と合理化の研究―庁舎における一考察―

山本 康友

公共建築は、国民の財産であり、多くの人々が利用しているが、実態が不明なため調査したところ、公共建築ストック総量は、6億9千万m2あり、これは、公民建築ストック総量の9%を占めていることがわかった。用途についても地方自治体では、住宅、学校、その他に概ね三分割され、建築後年数も、20年以上が6割を超える。
また、東京都の庁舎の投資分析を行うと、総工事費では建築工事費が大きいが、改修工事費だけ見ると、設備費の割合が高い。その中で、新築および改築工事金額と積み上げの改修工事金額をそれぞれ延べ床面積と使用年数をかけた値で割った値で比較してみたところ、 改修と改築工事の分岐点としては、概ね、建築後35年前後であることがわかった。

特集

JR東日本グループの不動産活用事例に関する一考察

小林 茂允

本稿では、民営化後、20周年を迎えたJR東日本グループの不動産活用事例について述べる。
JR東日本グループでは東京駅を含む開発エリアを「東京ステーションシティ」のコンセプトで東京駅を大きな街ととらえ、新しい文化が発信されるような駅づくりを推進している。赤レンガ構造の東京駅丸の内駅舎の復原工事も今春から始まり、現在、2階建てとなっているドーム部分を創建当時(大正時代)の3階建てによみがえらせる。丸の内駅舎の未利用容積は「特例容積率適用区域制度」の適用により、東京駅周辺の開発ビル敷地に移転して保存・復原の財源とするほか、八重洲口開発の開発ビル敷地にも移転活用している。これは一つの事例であるが、JR東日本の不動産活用は多岐に亘っており、駅ナカなどの新しいビジネスモデルに関しても言及してみたい。

判例研究

共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後になされた遺産分割の効力 ―最一小判平成17年9月8日(民集59巻7号1931頁)―

北河隆之

論考

オフィスストックの選択と集中―大阪・名古屋におけるオフィス地区の変容―

菊池 慶之

1990年代以降のオフィス市況低迷局面において、東京と地方都市の格差拡大が注目されてきたが、個々の都市内部レベルでも状況は一様ではなく、オフィス地区間の競争が激化している。そこで本稿では、バブル崩壊以降、景気後退が厳しかった大阪と、比較的堅調だった名古屋という対照的な2都市を取り上げ、1990年代中半以降のオフィスストックの動向を考察した。この結果、以下の知見が得られた。第一に、大阪においては、オフィス立地に地区間で明確な格差があり、都市内での二極化が観察されるのに対して、名古屋における現時点での地区間格差は軽微であった。この背景には、大阪におけるオフィス需要の低迷と、2000年以降の名古屋オフィス市況の急回復があり、需要減少局面ほど、地区間の格差が拡大する傾向が示唆された。第二に、商業-オフィス混在度がオフィス地区間の優劣を決定する鍵となりつつあり、新規のオフィス供給に大きな影響を与えていた。このような新規のオフィス供給は、地区のオフィス密度を高め、集積の効果を発揮するばかりではなく、より質の高いオフィス空間がより家賃負担能力の高いテナントを吸引し、地区のブランド力を高める効果を持つものといえよう。

論考

コーポレート・ガバナンスと企業不動産マネジメント―株式所有構造に着目した実証分析を中心に―

山本 卓

近年企業不動産マネジメントのあり方が注目されている。本研究では、企業の株式所有構造と有形固定資産効率性との関係について複数の視点からの分析を実施した。その結果として、外国人持株比率及び金融機関持株比率の高い企業は、外部のステークホルダーによる経営者に対するモニタリング機能が高まるためか、有形固定資産効率性が比較的高いことが浮き彫りとなった。

紹介

不動産鑑定評価基準の改正について (その1)

北本 政行

我が国における近年の不動産証券化市場は急速な進展をみせている。その市場の健全な発展と透明性を確保するため、また投資家や市場関係者に対し利益相反の回避や取引の公正性を示すために、不動産鑑定評価の果たす役割は重大なものとなっている。
その一方で、証券化対象不動産の鑑定評価の手法は複雑化し、不動産鑑定士に求められる知識と経験が高度化するなか、依頼者の理解と協力、市場関係者やエンジニアリング・レポート作成者との連携の必要性、さらには鑑定評価書における説明責任や比較容易性等が各方面から強く要請されている。
このような背景から、このたび不動産鑑定評価基準について、証券化対象不動産の鑑定評価を行う際に、従前の基準に記載している事項に加えて遵守すべき事項を追加する改正を行った。

調査

最近の不動産投資市場の動向について―第16回不動産投資家調査結果(2007年4月1日現在)をふまえて―

市川 丈

日本不動産研究所は、16回目を数える「不動産投資家調査」の結果を5月10日に発表した。
今回の全体的な特徴は、以下の4点に集約される。

  • 利回りは、全用途で低下傾向にありながら、一部地域では前回同様に底打ち観
  • 依然として高い新規投資への意欲
  • オフィス賃料の予測は改善傾向に地域差があり、かつ改善幅が縮小
  • 丸の内・大手町地区に関する想定借入金利とリスクプレミアムは横這い

都心における投資対象不動産の価格高騰により、地方の投資市場が拡大傾向を進めている。これまで、利回りの低下傾向が注目を集めていたが、昨今の景気回復を背景に、賃料上昇への期待が投資対象不動産の価格を押し上げている。
16回目で回答者数が100社に上った今回調査では、利回りと賃料上昇期待が、おのおの価格に及ぼす影響について、前提条件を踏まえたシミュレーションによる分析を行い、地域の特性を踏まえた考察の重要性が、改めて明確となった。

調査

最近の地価動向について―「市街地価格指数」の調査結果(平成19年3月末現在)をふまえて―

関 修一

日本不動産研究所は平成19年3月末現在の「市街地価格指数」を5月16日に発表した。「市街地価格指数」からみた最近の地価動向の主な特徴は次のとおりである。(1)「全国」:商業地・住宅地・工業地の各用途で下落幅が縮小。(2)「六大都市」:すべての用途で上昇が継続。(3)三大都市圏では、「東京圏」のうち、「東京区部」の商業地・最高価格地が2桁上昇しており、上昇幅も拡大。(4)今後の地価の見通しでは、六大都市のような大都市では地価上昇が継続する見通し。

海外論壇

The Appraisal Journal Winter 2007

外国鑑定理論実務研究会

資料

2007年1~3月期四半期GDP速報説明

資料

不動産関係法令の案内 建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の改正―耐震改修促進計画を中心に―

建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)は、平成7年の阪神淡路大震災の後、平成7年12月に施行されたものである。現在の耐震化への進行の状況を踏まえ、「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正耐震改修促進法)が、関係政令及び国土交通大臣が定める基本方針とともに、平成18年1月26日に施行された。改正の主な内容としては、(1)計画的な耐震化を促進すること、(2)建築物の所有者等に対する指導等を強化すること、(3)耐震化の支援制度を充実することなどである。計画的な耐震化を促進することに関しては、施行後遅くとも1年以内に、地方公共団体が耐震改修促進計画を策定することとされ、現時点ではほとんどの都道府県で計画が策定されている。

資料

不動産統計

資料

日本不動産研究所図書室 主な新規受入図書リスト ―2007年2月中旬~2007年5月末―

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