谷中の最寄駅はJR・京成線日暮里駅、地下鉄千代田線千駄木駅・同根津駅である。大勢の人で賑わう「谷中銀座」は、その中央に位置している。谷中は武蔵野台地を構成する上野台地上にあり、その東は台地の縁辺部で、山手線などが走る崖線を境に下町低地とつながっている。谷中は上野や日暮里から距離は近いが、下町の繁華街は崖の下で止まっている。この地は、台地上の窪地に形成された閑静な寺町で、山の手と呼ばれる一角にありながら、下町の風情が残る歴史と情緒に溢れるまちである。
この地は、自然の緑に囲まれ高層ビルもなく、目につくのはお寺さんと古い木造家屋で、要は田舎っぽいまちなのである。しかし、一方でハイカラな面ももっている。近くに芸大や東大があるので、ここの学生さんや先生方が、この地に住んだり集会を開くなどしてまちを徘徊しており、まちの雰囲気とはミスマッチなところもあるが、そこがまたいい。このまちは台地にあって谷地、現代にあって江戸や明治・大正そして昭和を感じさせるまちで、都会の中の村、山の手の中の下町となっている。このように相反するものが矛盾なく融合しているところに、このまちの魅力がある。正に日本的なのである。
この谷中の寺町、下町風情を醸すモノトーンの風景の中にいると、まるで昔の伝統的な日本にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。ここ谷中の地は、自然地形をふまえ造られた江戸の都市基盤の上に、明治・大正・昭和の建物が乗っており、古き良き日本の雰囲気を醸す穏やかな町並みが外国人観光客をひきつけ、谷中は彼らの宿泊拠点の一つとなっている。
また、この情景を味わいたいと、オフには東京圏の人々がわんさか、この都会の中の村を求め疲れた心を癒しにやってくる。彼らはタウンマップ片手に、寺町の築地塀に沿って路地を散策したり、博物館や記念館などをめぐっては、この地の雰囲気に浸り、鄙びた喫茶店に佇んで思い思いの会話を楽しんでいる。また100軒以上あるといわれるギャラリーや雑貨屋さんで、お土産物選びに忙しい時を過ごしている。正にディスカバージャパンなのである。この地では人々の記憶の中にある、あの懐かしい風景、故郷探しの旅が展開されている。
谷中には路地に築地塀そして木立があり、古い木造三階建の風情ある建物も残り、名所・旧跡などの文化財も多くある。江戸っぽさと明治・大正そして昭和の懐かしい風景が垣間見える、そんなのどかで穏やかな雰囲気を醸す奧性の高いまちである。この地は道が狭いため車も入ってこれず、高い建物も建たない、大都会の中心部にあって、こんなにヒューマンスケールな暮らしやすいまちには、なかなかお目にかかれない。近代化原理(産業都市として機能や施設の整備による経済性・効率性の向上)を取り払ってみると、とても魅力的なまちなのである。