日本型まちづくりの成熟（神に守られ、自然を育み、文化を醸成）

日本型まちづくりの成熟（神に守られ、自然を育み、文化を醸成）

　日本は、島国という閉鎖的な環境の下、外洋から幾度となく新たな文化が伝来してきた。伝来した文化と既存の文化との間には、その都度、摩擦や葛藤が生じたが、平穏な暮らしを尊び人生を楽しむことを志向する日本の民は、その都度、魅力的なものは受け入れ、そうでないものは切り捨てるなど取捨選択し、長い歴史時間の中で外来文化を咀嚼し育むようにして、従前の文化との間に折り合いを付け、その内に取り込み昇華、融合化を果たす形で独自の文化を逐次バージョンアップしてきた（外来文化の日本化）。即ち、原始自然の土着文化の上に、大陸から移入された農業文化が乗り、さらにその上に近代精神を宿した工業文化が付け加わり、今日の共生融合型の日本文化が形成されてきている。

　この地のまちづくりも、これと同じく通りを軸に自然共生・先進文化導入更新型のまちづくりとなっている。即ち、近代日本の守り神として人工的に造林された神聖な神宮の杜を背後に、まちの軸となる参道にはケヤキ並木を配し、これを強調、その沿道には神宮へと向かうハレの場に相応しく、同潤会アパートの一部再現（店舗として利用）にみられるように、従前の街並みと融合するようデザインを工夫し、賑わいの店舗を立地させ通りの中心性を高めるとともに、その裏側には住宅地を引き込み、表の商業地を引き立てるべく生活型店舗も混じえてまちづくりすることで、この地の場所がもつ魅力を高めている。

　この原宿・表参道のまちの特徴は、自然と文明とが融合する日本型のまちづくりにある。かつて常緑広葉樹林の深い緑に覆われたメソポタミアやエジプトまたギリシャなどの人類文明発祥の地が、これらの森林を破壊したことから文明や都市までも失うことになってしまったのに比べ、この原宿・表参道のまちでは人々が時をかけ、神宮の杜や参道のケヤキ並木を造林そして育み、これと共生融合するようまちづくりを進めてきている。だからこそ、この地は近代日本の発展とともに、世界を代表する上質なまちに仕上っている。地元では2020年東京オリンピック開催に向け、芸術作品ともいえるこの成熟したまちの姿を世界の人々に見ていただこうと、来街者へのおもてなしの心にさらに磨きをかけている。

参考文献等

舘野允彦（2001）：「不思議空間の魅力とまちづくり、ファッションの路地・原宿」学芸出版社
遠山益（2006）：「本多静六　日本の森林を育てた人」実業之日本社
今泉宜子（2008）：「明治神宮　戦後復興の軌跡」鹿島出版会
秋尾沙戸子（2009）：「ワシントンハイツＧＨＱが東京に刻んだ戦後」新潮社
今泉宜子他（2010）：「環境貢献都市東京のリ・デザイン」清文社
渋谷区役所ホームページ：「神宮前地区まちづくり指針、都市計画、地区計画」

沿革

1906年　山手線原宿駅開業、市電青山線開通（オリンピック道路拡幅のため1963年廃止）
1912年　明治天皇崩御
1915年　明治神社の造営決定
1919年　表参道の整備
1920年11月　明治天皇鎮座祭
1921年　表参道へケヤキを植樹（201本）
1926年　明治神宮一帯に風致地区指定
1927年　同潤会青山アパート完成
1938年　地下鉄銀座線開通（現、表参道駅開業）
1945年4月　明治神宮の社殿焼失
1945年5月　表参道のケヤキ焼失
1946年　ワシントンハイツの整備
1949年春　地元造園業者、北多摩豊田からケヤキの若木を取り寄せ植栽
1953年7月　明治神宮復興奉賛会設立
1957年　文教地区の指定
1958年　社殿復興
1960年　原宿セントラルアパート完成
1964年10月　東京オリンピック開催
1965年　コープオリンピア完成
1966年　原宿初のブティック、マドモアゼルノンノン開店
1960-70年代　ＶＡＮ、ＪＵＮの店舗立地
1970年　『an・an』『non-no』が原宿をお洒落な街として取り上げる→アンノン族出現
1972年　地下鉄千代田線開通（明治神宮前駅、表参道駅開業）
1975年　フロムファーストビル完成
1978年　地下鉄半蔵門線開通（表参道駅開業）
1078年　ラフォーレ原宿オープン
1980年代　DC（Designer’s 　&　Character’s）ブランドブーム、竹の子族の影響により竹下通りが発展
2002年　表参道地区地区計画決定
2003年6月　プラダ青山店オープン
2005年　神宮前五・六丁目地区地区計画決定
2006年2月　表参道ヒルズオープン
2008年　地下鉄副都心線開通（明治神宮前駅開業）2013年から東急東横線と乗り入れ
2013年　神宮前一・三・四丁目地区地区計画決定