場所柄を活かし共存・融合（人気の都心居住、扇型・曲線の三日月プラン）

場所柄を活かし共存・融合　人気の都心居住、扇型・曲線の三日月プラン

　2010年6月、区分所有者・住人とデベロッパーの努力が結実、新しいマンションは竣工の運びとなった。マンション再生のポイントは、この地のアイデンティティである、内藤家屋敷地跡に整備された「新宿御苑に隣接する」という立地の優位性を如何に活かせるかということにあった。このマンションはニューヨークのセントラルパーク沿って建つ高級マンションのように、その地の風情を醸すべく周辺環境との調和に意を注ぐとともに、部屋から新宿御苑の眺望を堪能できるよう、建物の平面計画は扇型にデザインされている。住戸には「逆梁構造」を採用し間口を広く取り、新宿御苑に面するリビングの窓には高さ2.2mのハイサッシが用いられた。

　従前のマンションと比べると、利用容積率が約300％から約400％になったことで、総専有面積は4,925平方メートルから、容積率規制の除外分も含め7,387㎡へと増床可能となった。建物は地上13階地下2階建で、総戸数は93戸である。地上9階までに従前所有者の住戸を54戸配置するとともに、1階部分にはロビーのほか事務所を4戸構えた。10階以上が分譲販売用の住戸である。販売用住戸は高い位置にあるため、都心のビューを楽しめるようになっている。とりわけ御苑側の新宿駅方向は御苑のプラタナスの並木や明治神宮の森なども視界に入ってくる。

　この建替え事業は、土地代はかからないが、建設費等に40～50億円を要した。住人は従前と同規模の住戸を手に入れようとすると２割の負担が必要となるが、世帯も高齢化し子供も独立して広い住戸はいらないということなら、2割ほど狭い住戸で等価交換ということにすると、負担はなしとなる。建替え後、従前69戸あった権利者の住戸は58戸となった、11戸が転出したことになる。建替えに伴い新たに増加した住戸が24戸、あわせて35戸が分譲販売の対象となった。間取りは2LDK～3LDKで専有面積は66.60～125.20㎡。最多価格帯は9,000万円台である。「10階以上の部分で専有面積80㎡を有する御苑側の住戸だと、坪単価は500万程度と見込まれた。分譲住戸の販売価格は平均で約1億3,200万円である。売り出された住戸は即日完売で大人気であった。

○人生の新たな宿づくり　場所のもつ固有性に沿った対応

　このマンションに対する取得ニーズは高く、新聞折り込み等をしていないにも関わらず、ホームページにアップすると、早々に3,000件を超える反響があった。また、現地には約1000組も訪れた。関心を持った人々の職業・年齢をみると、医師や外資系企業に勤める40代の人達が中心で、DINKSからの問い合わせが多かった。近隣の外苑エリア居住者のほか、海外の居住者からの求めもあった。

　本件マンションが建替えに成功したポイントは、この地の場所のもつ固有性「まもる」に沿った対応を行ったことにある。即ち、建替えによる耐震性の向上で生命と生活の保持を、また御苑北側の低層住宅地の日照への配慮、居住環境の維持、さらに御苑の風致の維持と外苑の眺望の保持といった、世間の求めと折り合うことによって、ようやく建替えは成立となった。もちろんこの地の場所がもつ魅力が評価され、新しく創出された住戸が高く販売できたことが事業成功のポイントであることを忘れてはならない。

　このように建築費に大きな地域差がない中、その地がもつ固有な価値をしっかり意識し、これを場所がもつ魅力として高めていくことがいかに重要かを、このマンション建替えは教えてくれる。この地のマンション住人は、こうして人生という旅の「 新・ たな 宿・ づくり」ができたということである。マンションが社会的な資産となった現代において、「建替事業」の社会的意義は大きい。今後もマンション建替え需要は拡大していく。こうした成功事例をよく学習し、そのノウハウを上手に活用していくことが求められる。

参考文献等

河村茂（1999）：「新宿・街づくり物語―誕生から新都心まで三百年―」鹿島出版会
河村茂（2001）：「日本の首都　江戸・東京都市づくり物語」都政出版社
坂根 康裕（2009）：「高級マンション・再生の魅力　プラウド新宿御苑エンパイア」All About
不動産事業スキーム・ファイナンス研究会（2009）：「激動！不動産」清文社
野村不動産（2009）：「エンパイアコープの建替え」ＲＢＡタイムズ
今泉宜子（2010）：「環境貢献都市東京のリ・デザイン」清文社
野村不動産（2010）：「プラウド新宿御苑エンパイア」ＰＲＯＵＤ ＣＬＵＢ