突如現われたジャンクションの異様なフォルムに一瞬目を奪われる。今後、良くも悪くも、大橋地区の印象になるだろう。構造物のデザイン性も一種の固有性に違いないが、「固有性まちづくり」は、その実現に至る本質的な部分を捉えている。
大橋地区にあっては、道路空間で埋め尽くされるという地域の危機的状況から、道路施設の未利用空間を生かし、そこを中心に周辺地域との連続性をもたせ、拠点性や広域性、豊かな居住性をもつ場所へと転じたことに固有性の真髄がある。そこには、人との交流が生まれ、コミュニティが育まれ、緑豊かな生活を実感できる空間形成への計画的な設えがある。
中井検裕氏から紹介のあったエドワード・レルフの言葉を借りれば、『本来、無機質である空間にかかわる人間の立場とか思いのようなものが加わってくると、それが場所になっていく。空間をつくり、それを場所に仕立て上げていく一連のプロセスが非常に重要だ』という。
ジャンクション建設の道のりは平たんなものではなかったが、ほぼ予定通り開業した。そして、東京都心の交通渋滞緩和に貢献し都市再生という国家的ミッションに応えた。同時に、地権者が住み続けられる生活の場に再生し、周辺住民をはじめ多くの区民が訪れる広域生活拠点の場に設えることもできた。
一昨年9月、地元のホームページで呼びかけ募集した人々により、地域活動母体となるNPO法人「大橋エリアマネジメント協議会」が発足した。住民の手でスポーツや地域の祭りなど、多目的広場の活動や庭園の植栽・管理が行われている。
昨年3月には、地元住民の実行委員会による「オーパス目黒大橋まちびらきフェスタ」も開かれた。[写真10]
目黒天空庭園は新たな観光スポットの一つとして、観光バスで多くの見物客も訪れ始めている。年間30万以上の人が訪れるとも推計される。一周年の昨年11月には、庭園で栽培した野菜等の収穫祭、収穫したブドウを使ったワインの試飲会なども行われた。[写真11]
地権者でもあるNPO協議会会長の相良氏は、『これからは、若い人が中心に活動できるよう後継者を育てたい。また、大橋グッズとして3D写真集、地元産の果物などを広く区民の皆さんに原価で提供したい。』と熱く抱負を語る。相良氏との会話から、これからもNPOを支える人々によって、様々な知恵を生かした多彩な活動が展開されていくと確信した。
このように、大橋地区まちづくりは、公共の手から住民に確実にバトンタッチされた。時間経過のなかで、地元からの活動の輪が広がり、多くの住民によってさらに熟していくだろう。そして、固有性をもつ場所、大都市東京の多様性を彩る場所の一つとして人々に語られることになろう。
固有性まちづくりとは、そこに携わる人々のまちづくりに対する強い熱意とこだわりが生み出すものだと、筆者はこの経験を通して実感した。それは、どこのまちづくりでも可能であるし、一つひとつの積み重ねが、都市を豊かなものにするのだということを。
注釈 ・エドワード・レルフ『場所の現象学』中井検裕「空間と場所の違い、その普遍性と固有性について」
(不動産調査NO.390(2013/4/15) 日本不動産研究所)より
・文中掲載の図資料は、目黒区・東京都・首都高の事業用パンフレットによる。図中表示の(区)は目黒区、(都)は 東 京都、(首)首都高株式会社からの資料提供。また、写真1は東京都、2-1は目黒区、写真2-2及び9、10は大橋エリア マネジメント協議会からの提供によるものである。
・「大橋一丁目周辺地区街づくり事業史」(目黒区 2013年3月)
・浅見泰司・中井検裕・山口幹幸・佐土原聡・陣内秀信編著『環境貢献都市 東京のリ・デザイン ~広域的な環境価値 最大化を目指して~「高速道路整備を契機とした環境親和型まちづくり; 祖父江光治 著」 』(清文社2010年11月)
・2013年、首都高・東京都・目黒区は、『目黒天空庭園を含む大橋ジャンクション』で「グッドデザイン・未来づくり デザイン賞」を受賞。また、目黒区・首都高は、『目黒天空庭園・オーパス夢ひろば』で「第29回都市公園コンクー ル国土交通大臣賞(企画・独創部門)」を、さらに首都高は「屋上緑化・壁面・ 特殊緑化技術コンクール環境大臣賞」 を受賞した。
・著者は、2004~06年目黒区に在籍し「大橋一丁目周辺地区整備方針」18のプラン策定に従事。2011年東京都(都市整備局部長)を退職、同年4月より(株)大成建設理事。
著書